日本企業の一部では今でも「上司が残っているから自分も残る」みたいな、きわめて無駄な時間つぶしが蔓延しているし、労働基準法無視の「サービズ残業」やら「過労死」みたいなものも残っている。その結果、日本の時間当たり労働生産性はOECD加盟38カ国中27位なのである。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
労働生産性の低さで見える日本社会の闇
労働の効率性を計る尺度に「労働生産性」というものがある。平たく言うと「労働者1人または時間当たりの労働で得られる成果」を現すものである。
同じ労働量でより多くの生産物を作り出せたほうが効率が良い。あるいは、より少ない労働量でこれまでと同じ量の生産物を作り出せたほうが効率が良い。それができているのかどうかを測ることによって、労働が効率的に為されているのか、それとも非効率なのかが分かる。
ところが、である。
日本の時間当たり労働生産性はOECD加盟38カ国中27位で、非常に低い。これはどういうことなのかというと、「日本の働き方は効率的ではない」ということを指している。おおよそ、先進国とは思えない非効率さが日本企業に蔓延しているということなのだ。
日本の労働生産性が低い理由は何か。日本の労働時間は、OECD加盟国の中で最長となっているのだが、長時間労働が常態化していることに問題がある。
日本企業の一部では今でも「上司が残っているから自分も残る」みたいな、きわめて無駄な時間つぶしが蔓延しているし、労働基準法無視の「サービズ残業」やら「過労死」みたいなものも残っている。相変わらずブラック企業は存在する。
こうした非効率性が労働生産性を引き下げて、日本の労働環境を悪化させている。
長時間労働は、労働者の疲労やストレスを増大させ、生産性の低下を招く。また、長時間労働を続けることで、労働者のモチベーションや創造性も低下してしまう。しかし、日本企業は今まで社員にその非効率を押しつけていた。
そして、非効率を押し付けながら社員の賃金を低く抑えてきた。まさに「悪条件・低賃金」で社員を〝社畜〟にしていたと言える。
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「仕事で酷使されて死ぬ」は日本では普通にある?
労働生産性が低いというのは、要するに社員をだらだらと働かせて生産性を下げているということもである。その結果として「サービズ残業」や「過労死」みたいな現象があるのだ。
「サービス残業」とは、労働者が法定の労働時間外に働かされ、それに対する賃金が支払われない状態を指する。以前、広告大手代理店に勤めていた女性が過労で精神的に追い込まれて自殺した事件もあったが、この企業では彼女以外にも何人もの社員が途方もない残業で自殺している。
死んだ女性は「土日も出勤しなければならないことがまた決定し、本気で死んでしまいたい」とか「生きているために働いているのか、働くために生きているのか分からなくなってからが人生」と悲痛なメッセージを残している。
海外では「仕事で酷使されて死ぬ」など考えられないだろうが、日本では普通にある。日本の労働者は、ある意味「奴隷」も同然の立場なのである。だから、過労死が今でもニュースになる。
最近では神戸市の基幹病院につとめる26歳の医師が過労死に追い込まれているのだが、この男性は100日連続で働き、直前1カ月の残業は207時間以上にものぼっていた。ちなみに「過労死ライン」とされるのは月80時間である。
追い詰められた最後の頃は「頭がまわらない」「誰も助けてくれない」「もう明日起きたら、全てがなくなっていたらいいのに」と悲痛な言葉を残していた。
日本人のほとんどの従業員は真面目なので「文句を言わずに働かなければならない」と信じて、上からのどんな理不尽でも耐える気質がある。経営者がそれを当たり前だと思って、従業員を非人間的に酷使すると、それがサービズ残業を生み出し、従業員を社畜化し、最終的に過労死を生み出すことになる。
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長時間労働や過重労働が慢性的に行われる職場
長時間労働や過重労働が慢性的に行われる職場は、従業員を極度の疲労とストレスに追い込んでいく。そして、疲労とストレスに追い込まれた従業員が、生産性を向上させることは絶対にない。
言うまでもないが、疲労やストレスが蓄積すると、集中力や判断力が低下し、ミスや事故のリスクが高まる。また、モチベーションや創造性も低下し、仕事の効率がどんどん悪くなっていく。
ミスや事故が増加する。社内の空気が悪化していく。業務が杜撰になる。改善や改良も行われなくなる。顧客にも迷惑が及ぶようになる。イノベーションも疎外される。離職率も増加する。
そうやって従業員が精神的にも肉体的にも壊れていくと、結局は企業の成長にもブレーキがかかってしまう。長時間労働や過重労働が慢性的に行われる職場は、経営者が経営に失敗していることに他ならない。
経営者の失敗のツケが従業員にのしかかり、ストレスでうつ病になったり、病気になったり、過労死したりして命を削ることになっているのだ。
このように見えていくと、日本企業と経営者は「労働生産性を引き上げる」ために、いかに効率性を重視しないといけないかがわかってくるはずだ。
従業員を酷使して使い潰して生産性を上げるのではなく、従業員が時間内で能力を飛躍的に発揮できるように環境を整えていかなければならないのは自明の理だ。そうしないと日本企業で働く従業員は誰も幸せになれない。
時間内で従業員が活き活きと過ごせて生産性が高まるようにする。それが日本の経営者に求められているのだ。
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ここを変えない限り日本が成長を取り戻すことはない
日本企業の経営者は、出勤時間や労働時間の長さを評価する傾向がある。また日本人の労働者もそれを敏感に感じ取って、だからこそサービズ残業や長時間労働が当たり前になるのだ。そうすることによって評価されるのであれば、そうなってしまっても仕方がない。
しかし、出勤時間や労働時間の長さで従業員を評価するのは、もはや昭和の悪しき働き方の遺物でしかない。それだと、1時間でできる仕事を30分で終わらせてしまう従業員は評価されず、10時間かけてやる人間がもっとも優秀な人間になってしまう。
本来であれば、1時間でできる仕事を30分で終わらせてさっさと帰る有能な従業員に企業は高給を払うべきで、1時間でできる仕事を10時間かけてやる人間はクビにすべきなのだが、日本企業は違うのだ。
日本企業では、1時間でできる仕事を10時間かけてやる人間が評価される。
それが、日本の時間当たり労働生産性はOECD加盟38カ国中27位という惨憺たる結果になって現れている。あまりにも頭がおかしいが、日本社会や日本企業は今でもそういうところがあるのは深刻でもある。
出勤時間や労働時間の長さだけでなく、業績や成果に焦点を当てるべきなのだ。いかに効率的に成果を上げたのかを評価することによって、従業員は仕事に集中し、生産性が向上し、結果として企業も伸びる。
今の若い日本人は、日本社会や日本企業があまりにも「非効率」であることを理解している。理解できていないのは昭和の働き方が当たり前だと思っている経営者だけである。
ここを変えない限り、日本社会も日本企業も成長を取り戻すことはない。こんな当たり前が理解できない経営者は絶滅してほしいものだ。