『縁の下のイミグレ』。技能実習生という存在と矛盾を描く興味深い映画

『縁の下のイミグレ』。技能実習生という存在と矛盾を描く興味深い映画

映画『縁の下のイミグレ』は技能実習生の問題を描く社会派の映画なのだが、映画はブラックコメディの味わいとなっている。「賃金を払ってもらえない」という相談を深掘りすればするほど、登場人物の考え方や思いが二転三転し、終盤に向けて感情がヒートアップしていく。おもしろい映画だった。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

技能実習生という存在と矛盾を描く興味深い映画

岸田政権は、留学生・技能実習生・単純労働者・インバウンドを「隠れ移民政策」として暴走するかのように進めているのだが、これによって日本は間違いなく「多文化社会」となっていく。

日本政府や行政はこれを「多文化共生」と呼んでいるのだが、最近は「共生」なんかできっこないという現実が見えてきたので「共生」を外して「他文化社会」とか言い出すようになってきている。

こうした中で、技能実習生については世界から「奴隷制度」だと言われるようになって、2023年4月から慌てて廃止する動きになっている。技能実習の問題については、こちらでも取り扱った。(途上国から若者を連れて来て奴隷労働で使い捨て、そして犯罪で報復される日本

技能実習制度は1993年にスタートしたものだが、これは「日本で覚えた技能を自国で展開するための研修生」という大義名分で入れられた。実際には低賃金・悪条件で働かせるための奴隷労働者に過ぎず、これを世界から「非人道的だ」と批判されていたのである。

この技能実習生という存在と矛盾を描く興味深い映画『縁の下のイミグレ』が上映されているので、製作会社のご好意により一足先に見ることができた。

この外国人の労働問題が映画のテーマになるというのも驚きなのだが、この映画は日本で何が起こっているのかを誰でもわかるように説明しつつ、問題提起しながら同時にその背景までもしっかり説明して、それを「劇」として観せるという離れ業を行っているのだった。

なぜ、日本の社会にこんなに外国人が働いており、それはどういう状況でこうなったのか知りたい人は、この映画を観るべきだと言える。

『縁の下のイミグレ』予告編

あらすじ

貧しい家族を支えるため発展途上国から【技能実習生】として日本にやってきたハイン(ナターシャ)。ジャパニーズドリームを夢見て工場で働くも、職場での不遇が続いた。そんな状況を不憫に思った日本の知り合い土井(堀家一希)は、どこに相談していいかわからなかったが、ネットで無料相談を見つけ、相談の予約をする。(公式サイトより)

https://www.imigure.com/

彼女はどうしても辞めるわけにはいかない理由があった

公開記念舞台挨拶の中で、監督なるせゆうせい氏は「この映画はワンシチュエーション・ムービー」であると語り、登場人物のひとりである俳優ラサール石井氏は、いみじくも「この映画は舞台である」と解説していたが、本当に物語の99%は行政書士の事務所の一室だけで展開する。

最初はベトナム技能実習生が「賃金がもらえない」という相談で友人の男性と一緒に無料相談の行政書士の事務所に訪れるのだが、そこで技能実習生がトラブルに見舞われても非常に弱い立場であることが説明される。

賃金が出なくなっても、ここで揉めたらクビにされてしまうと彼らは怯えて何も言わないで泣き寝入りする。しかし、この映画の主人公であるハインというベトナムから来た彼女だけは知人と相談してなんとか賃金をもらえないかと行動を起こした。

知人男性は、彼女が賃金をもらえないのであればそこを辞めて新しいところに移ればいいと単純に思うのだが、実は技能実習生の立場は、そんな簡単ではないという「現実」を行政書士に突きつけられる。

彼らは技能実習生としての特別なビザでやってきているのだが、このビザは一般的な「労働ビザ」ではないので会社を辞めるのであれば帰国しなければならないという条件になっていたのである。

しかし、彼女はどうしても辞めるわけにはいかない理由があった。それは「借金」である。彼女たちは日本に来るために莫大な借金を背負っており、日本で金が返せないまま帰国してしまうと、一生返せない借金だけが残って悲惨なことになってしまう。

そのため、石にかじりついても日本で働き続けなければならなかったのである。

劇中ではベトナムで月給が3万円なのに、借金はだいたい100万円を抱える技能実習生が多いと言うことが説明される。

公開記念舞台挨拶。左端なるせゆうせい監督。

技能実習生という外国人の奴隷労働を生み出す仕組み

借金を返すために帰るわけにはいかない技能実習生たち。しかし、賃金を払ってもらえない状況。それを騒ぐとクビを切られてしまうという弱い立場……。

彼女の知人は絶句するのだが、「どうしてこんなことに……」という彼の問いに行政書士は答える。

「日本人は安い品物を喜んで買っている。安い品物を作るためには企業はコストを下げなければならない。コストを下げるためには人件費を下げる必要がある。だから、日本は外国から低賃金・悪条件で働く外国人を入れているのだ」

という現実を突きつける……。

「日本は少子高齢化だし、地方は人手不足で悲惨なことになっているし、そうであれば外国人労働者を入れるというのは素晴らしいことではないか」と述べる登場人物もいる。「人手不足を解決するために我々は素晴らしい解決方法を考えたのだ」と政治家は無邪気に思う。

しかし、それが技能実習生という外国人の奴隷労働を生み出す仕組みとなってしまっている。

こうした社会の矛盾が、この舞台劇映画の中で次々と露わになっていく。

深刻な社会問題なのだが、しかし映画はブラックコメディの味わいとなっている。何しろ、「賃金を払ってもらえない」という相談を深掘りすればするほど、登場人物の考え方や思いが二転三転し、終盤に向けて感情がヒートアップしていくからだ。

ほぼ事務所の一室で終始するセリフで見せる舞台的な映画なのだが、ストーリー展開がおもしろくて78分が本当に短く感じた。日本の暗部で何が起きているのかを知りたい人は、この映画は本当にオススメである。

ちなみに、ベトナム人留学生を演じている女優ナターシャさんは、実際にはフィリピン人であることを公開記念舞台挨拶で語っていた。

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