コロナ禍で貧困層の賃金は大ダメージを受けた。しかし税金だけは下がるどころか上がっていく。ガソリンの値上げや流通の混乱で物価も上がっている。企業もコスト削減ばかりだ。そのため最初は「安物しか買わない」だった人も、いつしか「安物しか買えない」に追い詰められた。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
「安物しか買わない」ので、日本の社会が変化した?
Amazonは世界を制覇した最強のWeb通販サイトなのだが、最近はAmazonも「安い」というわけではなくなっており、世界中の貧困層はすでにAmazonから離れている。Amazonは上品になったのだ。では、ここを離れた貧困層はどこに行っているのか?
それは、「wish」というサイトである。
https://www.wish.com
このサイトは見てくれだけはキレイだが、中身は中国製の激安品・粗悪品ばかりを集めた粗悪品まみれのサイトである。しかし、欧米の貧困層がこのサイトを使うようになり、日本でもじわじわと利用者を増やしているのである。
人々は安物しか「買わない」ようになり、それが行き着くと、いずれは「安物しか買えない」ようになる。「安物しか買わない」と、「安物しか買えない」というのは、根本的にまったく違う意味を持つ。
「安物しか買わない」というのは、その気になれば高いものも買うことができるということである。つまり、選択肢がある。「安物しか買えない」というのは、高いものが買えず、選択肢がない状態である。
コロナ禍で貧困層の賃金は大ダメージを受けた。しかし税金だけは下がるどころか上がっていく。ガソリンの値上げや流通の混乱で物価も上がっている。企業もコスト削減ばかりだ。そのため最初は「安物しか買わない」だった人も、いつしか「安物しか買えない」に追い詰められた。
日本でも、すでに「安物しか買えない」状態の人も大勢いる。日本人が「安物しか買わない」ので、日本の社会が変化して「安物しか買えない」ようになっていったと気付いている人は少ない。
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安物しか買わないと、安物しか買えなくなる理由
「安物しか買わない」が日本の底辺で進行し、コロナ禍の中でそれはますます加速している。今のところは「まだ安物しか買わない」と言っている人も、このままではいずれ「安物しか買えない」状態に堕ちていく。
ここで言う安物とは、粗悪品まみれのサイト「wish」で出回っている本当の粗悪品まがいの安物や、素材を手抜きしたすぐ壊れるような商品の話をしている。そういった粗悪品まがいが、日本を席捲していくのだ。
「wish」で手に入るような粗悪の安物しか買わないと、安物しか買えなくなっていく理由は、いくつもあるが、その最も簡単なのは因果は以下のものだ。
(1)安物しか買わない。
(2)安物が作れる企業しか生き残れない。
(3)それは途上国の企業である。
(4)日本の企業はつぶれる。
(5)日本人が貧困化する。
(6)安物しか買えなくなる。
すぐに壊れるような粗悪品であっても、ただ安いというだけで買う人がいる。やがて安物だけしか売れなくなると、通常の値段で物を売っているまともな日本企業は苦境に落ちて資金繰りがどんどん難しくなる。これは当たり前のことだ。
これが続くと「まともな製品を作っている企業」が追い込まれてリストラも起こるし、場合によっては倒産に追い込まれることになる。そして、どうなるのか。日本企業が日本人を雇えなくなったら、当然、日本人は貧困化するのである。
だから、最終的に安物ばかり買うことによって、日本人は貧困化して安物「しか」買えなくなっていく。
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安物ばかり買っていると、やがて安物しか買えなくなる
もちろん、日本企業が全部つぶれるわけではない。生き残る企業もたくさんある。それなら安泰なのかというと、そうでもない。以下の動きも同時に起きるからだ。
(1)安物しか買わない。
(2)日本企業は安物を作るためにコストを削減する。
(3)コストの大半は人件費なので社員をリストラする。
(4)リストラが増えて日本人が貧しくなる。
(5)安物しか買えなくなる。
どのみち、日本人が安物しか買わなくなって、日本人が安物しか買えなくなるのは同じだ。
私たちは、「安い」がもたらすメリットばかりを見ている。消費税が10%になって重税感が浮かび上がると、ますます粗悪品ばかりが出回ることになるはずだ。「安ければいいではないか」と人々は思う。
しかし、そのデメリットも気付くべきなのである。安物ばかり買っていると、自分たちが安物しか買えなくなるという現実を知らなければならない。これは、グローバル化した社会が生み出す光景なのである。
グローバル経済の本質は、世界規模のコスト削減による安売り競争にある。多国籍企業は、賃金の安い国、仕入れ値を買い叩ける国を目がけて進出し、競争相手よりも1円よりも安い商品を提供しようと腐心する。
どんな正当な価格付けでも他よりも少しでも高いと、それだけで買わない人が大勢になり、それが製品の質の低下を招く。「悪貨は良貨を駆逐する」のだ。しかし、貧困層はお構いなしだ。
高い商品を買っている余裕はないし、そうであれば粗悪品でも安いというだけで我慢する。
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500円の時計が売れる国で5000万円の時計も売れる
企業は安い製品を何とか供給するために、安い人材を欲するようになる。それは2つの方法で実現される。
1. 安い労働力を「外」に探しにいく。(グローバル化)
2. 安い労働力を「外」から連れてくる。(多文化共生)
この流れはとまることはない。安売りはグローバル化と多文化共生によって、もっと激しく先鋭化した動きになっていく。それはつまり日本を含めた先進国の人々の賃金を想像以上に削減する流れとなって襲いかかっていく。
だから「安いものしか買わない」から、「安いものしか買えない」という動きが起きているのである。
先進国の人間が安いものしか買えないし、安いものしか買わなくなるのだから、企業はますます世界中を見回して賃金の安い国を渡り歩いていく。あるいは安い労働力を途上国から連れてきて低賃金・悪条件で働かせる。
先進国の賃金引き下げ圧力は、さらに強まっていく……。
もっとも格差の上の人間たちは「超高額商品」を買うので、贅沢品は売れる。500円の時計が売れる同じ時代の同じ国で、5000万円の時計もまた売れる。その差は10万倍だが今の格差は10万倍どころではないところに到達している。
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政府が自ら国民を、粗悪品しか買えないように追い詰めている
グローバル経済とは先進国の一般国民の賃金を引き下げる。日本人はそれを認識するのが遅かった。気づいた頃には日本社会もがっちりとグローバル経済に組み込まれており、人々の賃金は不安定なものになっていった。
賃金が不安定になっていくと、人々は節約を気にするようになって「きちんとした商品」ではなく「とにかく1円でも安い商品」に群がるようになる。
本来であれば、こうしたことにならないように、政府は減税して人々の負担を軽くしなければならないのに、日本政府は消費税をひたすら上げ続けており、ついに10%にまで到達してしまった。
消費税は「消費したら罰金を取る」という税金なのだから、人々は自衛のために消費しないか、仕方がなく消費したとしても激安のものしか買わなくなるのは当然のことだ。
しかも、日本は消費税だけでなく、ありとあらゆる税金がかけられているのだ。所得税、住民税、固定資産税、国民年金、介護保険料、復興税、自動車税、ガソリン税、酒税、タバコ税、贈与税、相続税……等々、税金まみれである。
グローバル化と多文化共生で酷税まで科せられているのだから、これで国民に「まともな日本企業の商品を買え」と言っても無駄な話でもある。
政府が自ら国民を、粗悪品しか買えないように追い詰めているのだから、日本企業の商品は売れなくなり、「wish」で売っているような値段だけはべらぼうに安い粗悪品しか売れなくなる。
グローバル化と多文化共生で賃金は常に引き下げ圧力がかかる。実質賃金が上がらずに税金が上がれば日本経済の衰退が加速するのに、政府はそれを強行してしまったのだから、もはやどうしようもない。
そういう時代になったということだ。