終身雇用が確実に消えていき、いつリストラされるのか分からない時代、普通の人に数十年ものローンを組んだマイホームなど必要だろうか?
住宅ローンのためにデリヘルで働く「普通の主婦」を、私はすでに何人も知っている。そのうちのひとりは、私が「住宅ローンのためにデリヘルで働いているの?」と尋ねると「どうして知っているの?」と驚愕した。
しかし、彼女は驚く必要はなかった。彼女の前に私は、彼女と同じくらいの年齢のデリヘル嬢から住宅ローンのために働いていると聞かされていた。そんな話を聞いていると、30代の意外に普通の感覚を持った女性がデリヘルで働いていると、何となくそうではないかと想像が働くようになる。
デリヘルで働くこのふたりの女性は、タイプは違ったが境遇はとてもよく似ていた。仕事が終われば、彼女たちはごく普通の「主婦」に戻る。
彼女たちは夫もいれば子供いる。その家庭は絵に描いたような典型的な「普通の家庭」である。サラリーマンの夫、ふたりの子供、夢に見たマイホーム。どこにでもある日本の家族の姿である。
ところが夫の会社は状況が厳しくなって、給料は現状維持でボーナスは下がり、やがて公共料金の支払いや子供の教育費等で追い詰められていく。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
日本の全世帯に貧困が回ったと
贅沢しているのではないのに、「普通」が維持できない。そんな時代に入っていることを私は肌で知った。
いまや年功序列や終身雇用をアテにしたシステムは機能していない。
そのため、それを前提にライフプランを組み立てると地獄に堕ちる。日本はまったく少子高齢化が解消できず、子供を増やした方がいいと誰かが言うと、マスコミが「失言だ」と袋叩きする奇妙な国である。
日本は、少子高齢化で内需が減退し、イノベーションも生み出せず、社会保障費も増大して国民に負担がかかり、貧困がじわじわと忍び寄っている。
子供が産み育てられない社会システムがすべての問題の元凶なのに、それを指摘したらマスコミが火病を起こして責める。そのくせ「日本に貧困が広がっている」としたり顔で憂うのだから、マスコミはどうしようもない。
最初、日本では若年層の貧困が取り沙汰された。次に女性の貧困が問題になった。次に子供の貧困が議題に上がった。そして今、中高年の貧困も認知されるようになった。高齢層の貧困も表面化するようになった。
2000年代から今現在まで、順繰りでクローズアップされるそれぞれの世代の貧困を相対的に見ると、日本で何が起きているのかが分かる。
それは、日本の全世帯に貧困が回ったということなのである。
貧困は、特定の世代、特定の性別、特定の地域の単発的な問題ではなくなった。すべての日本人が直面する大きな社会問題となった。
今や最も貧困から遠いはずの堅実に働いているサラリーマンまでもが、賃金の低下、リストラやリストラ不安、教育費の高騰、のしかかる住宅ローンなどで苦境にあえぐようになっている。
世界では猛烈なグローバル化が進んでいき、それは日本企業にも大きな影響を与えるようになった。終身雇用も年功序列も成り立たなくなっており、大企業も経団連も「もう終身雇用は難しい」と明確に言い出している。
こうした社会の動きが、働き盛りの中高年を直撃している。
【金融・経済・投資】鈴木傾城が発行する「ダークネス・メルマガ編」はこちら(初月無料)
社会が変わった結果起きていた現象
2008年のリーマン・ショック以降に世界経済が一気に不景気になってしまった後、不幸なことに日本では「民主党」という史上最悪の悪夢政党が政権の座に就き、政府機能は麻痺、日本は未曾有の円高となっていった。
日本企業は競争力を失い、縮小し、赤字に転がり落ち、公然とリストラに走るようになっていった。人件費は企業にとって重いコストなのだ。だから、追い詰められた企業は人件費を削減するしかない。
リストラされていったのは、高い賃金を取っている中高年である。
そうなってから、やっと中高年は2000年代に若年層が追い込まれて苦境に落ちていたことを思い出し、あれは自己責任ではなく、社会が変わった結果起きていた現象であるのを理解した。
突き進んでいくグローバル化によって企業の競争はさらに激烈化していき、企業はますますコストの大部分を占める人件費の削減に迫られることになる。
企業はもう従業員を守らなくなった。この流れは、さらに加速している。今後は明確に終身雇用も否定されるようになっていき、大企業も終身雇用の終わりを宣言するようになっていく。
アメリカではこういったグローバル化の波に洗われて多くの中流階級が下流に落ち、1%の金持ちと99%の貧困層という社会が出現した。日本も後を追っている。
そんな時代に、長期ローンを組んでマイホームを買うというのは、ある意味「危険な冒険」でもある。年収400万円の家庭も「家賃を払うより得だ」と思ってマイホームを買うが、少子高齢化の時代、マイホームは資産になり得ない。
新築マンションは新築はプレミアが2割も乗せられているし、住宅ローンが終わる頃はスラムマンションになっている可能性も高い。持ち家も20年も経てば資産価値などゼロに等しい。
数千万円も出して、数十年後は「巨大なゴミ」を抱えることになるのである。
ダークネスの電子書籍版!『邪悪な世界の落とし穴: 無防備に生きていると社会が仕掛けたワナに落ちる=鈴木傾城』
「不動産」ではなくて「負動産」
国の成長が止まり、人口も減って内需も消えようとしている時代になると、必死で努力しても努力が報われないような過酷な時代となる。働いている職場が残っているのかどうかも分からないし、自分がそこにいられるかどうかも分からない。
終身雇用が否定されるようになった今、うかうかしていると最初にリストラされるかもしれない。今までのように会社が面倒を見てくれるわけではなく、国に頼れる時代でもなくなった。
会社も頼れない。国も頼れない。そうなれば、もはや頼るのは自分自身しかない。これはとても切実な事態だ。そんな中で私たちが考えなければならないのは、いったい何だろうか。
「生活の質を落とさないように収入を向上させる努力をする」というのは基本中の基本だ。しかし、その基本をきちんと踏んでも維持がせいぜいで、不意にリストラされると収入が激減するのは避けられない。
そうであれば、いつでも「今の生活をダウングレードさせる態勢」を整えておくのは重要だ。家を借りていれば、いつでも家賃の安いところに引っ越せる。
35年ローンを組んでまで、今までの典型的な「普通」にこだわると、その普通を必死で維持するために、妻が夫に内緒で風俗で身体を売るような差し迫ったところにまで到達する可能性がある。
アンダーグラウンドの男ならいざ知らず、ごく普通の表社会で生きている男たちにとって、自分の妻が身体を売って生計を立てているというのは耐えられない事態のはずだ。
しかし、そんな普通の主婦に私はもうすでに出会っているのである。
銀行や住宅会社は、常に「住宅は今が買い時」「家賃よりローンの方が得だ」と煽っているのだが、普通の人にとってはマイホームを持って住宅ローンを払っていくというのは危険な社会になりつつある。
そして、少子高齢化による人口減が進む日本社会では住宅は「不動産」ではなくて「負動産」になってしまう危険が高いのだ。
そうであれば、ローンに人生を縛られるよりも、マイホームなどにこだわらず、何かあればいつでもダウングレードできるようにして、無理しないで生きる選択が現実的だ。マイホームにこだわって妻を風俗に追いやるのは「幸せな家庭」を築く上では本末転倒でもある。(written by 鈴木傾城)
このサイトは鈴木傾城が運営し、絶えず文章の修正・加筆・見直しをしています。ダークネスを他サイトへ無断転載する行為は固くお断りします。この記事の有料転載、もしくは記事のテーマに対する原稿依頼、その他の相談等はこちらにメールを下さい。
銀行や住宅会社は、常に「住宅は今が買い時」「家賃よりローンの方が得だ」と煽っているのだが、普通の人にとってはマイホームを持って住宅ローンを払っていくというのは危険な社会になりつつある。そして、少子高齢化による人口減が進む日本社会では住宅は「不動産」ではなくて「負動産」になってしまう危険が高いのだ。
この記事のツイッター投稿はこちらです
この記事を気に入って下さった方は、リツイートや♡(いいね)を押して頂ければ励みになります。
大企業や経団連による終身雇用の否定。少子高齢化を解決できない政治。銀行や住宅会社は、常に「住宅は今が買い時」「家賃よりローンの方が得だ」と煽っているのだが、普通の人にとってはマイホームを持って住宅ローンを払っていくというのは危険な社会になりつつある。https://t.co/HeL0JV7WGU
— 鈴木傾城 (@keiseisuzuki) May 31, 2019