現在、「すでに私たちは景気後退に突入している」と言う人もいるのだが、この景気後退がどれくらい深くていつ終わるのかは誰にも予測できない。分かっているのは、欧米中露のすべてが景気後退に見舞われれば、日本も当然のことながら巻き込まれていくということである。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
「住む場所を失った人」「失う恐れがある人」
厚生労働省は2009年10月に「住宅手当緊急特別措置事業」というものを開始していたのだが、これは「住む場所を失った人」「失う恐れがある人」を支援するための特別な救済措置だった。
賃貸住宅の家賃上限4万円を住宅手当という形で支給するという事業で6ヶ月まで支給支援があった。
ところで、なぜ2009年10月だったのか。それは2008年9月15日にリーマンショックが発生して経済が混乱し、多くの経済的弱者が窮地に落ちて家賃の支払いができず、立ち退きや住居喪失で混乱が生まれていたからである。
2000年代に入ってから非正規雇用者は急増しており、低賃金で昇進もなく失職しやすい社会的弱者が増え続けている。いまや就労者の4割近く、2165万人が非正規雇用者になっている。
そして、非正規雇用者の中の約1200万人は平均年収186万円以下で社会の底辺から這い上がることのできないアンダークラス(低所得層)であり、その低所得層のどん底の人たちはすでにネットカフェなどに寝泊まり歩く「住居喪失不安定就労者」である。
社会の底辺では、すでに「住む場所を失った人」「失う恐れがある人」だらけになっているのだ。
そんな状況の中、ウクライナ戦争は泥沼と化し、アメリカは利上げを繰り返しており、EU(欧州連合)もイギリスも政治経済は混乱したままである。中国もゼロコロナに不動産不況で減速したままだ。
日本も岸田政権は何もしない何もできない政権で、いまや支持率も30%台に入って国民の支持も失ってしまっている。
リーマンショックでも「住む場所を失った人」「失う恐れがある人」が続出していたのであれば、2023年には90%以上の確率で起こるという景気後退《リセッション》に入ると、さらにひどい光景が現れることになるのは避けられない。
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リストラされやすく仕事が見つかりにくい二重苦
非正規雇用者というのは「景気の調整弁」であるとはよく言われる。
景気が良ければ大勢雇われて、景気が悪くなれば真っ先に切られるのが非正規雇用者だ。正社員は簡単に切ることができないが、非正規雇用なら切ることができる。だから「調整弁」として使い捨てにされるのである。
2020年から現在までのコロナ禍でも彼らは「景気の調整弁」として雇い止めされて自殺者が急増したのは記憶に新しい。
その中でも女性の自殺者が格段に増えていたのだが、それは働く女性の2人に1人はすでに非正規雇用者であることと関係している。コロナ禍では彼女たちが「使い捨て」にされたのである。
非正規雇用者は不景気の時代には「リストラされやすい」と「仕事が見つかりにくい」という2つの困難が襲いかかる。
コロナ禍ではその両方が同時並行で起こって、非正規雇用の女性たちは収入が激減した上に将来に展望を見出すことができなくなった。そこに自粛の強要でコミュニケーションをも断たれてしまった。かくして孤独の中で自殺を選んだ女性が増えてしまったのである。
コロナ禍が明けると自粛で抑えられた反動から人々が弾け、爆発的な好景気が来るのではないかと期待されていたのだが、現実はそう甘くなさそうだ。コロナ禍の次にやってきたのはインフレだったのだ。
2020年から2021年まで、各国の政府はコロナ禍で急激に落ち込んだ金融経済を支援するために大胆な金融緩和を行った。それが今になってとめどないインフレを引き起こしている。
資本主義の総本山であるアメリカも7月の消費者物価指数は前年同月比8.5%上昇、8月は8.3%上昇、9月は8.2%上昇……と8%台のインフレが延々と続いている。そのためFRBはこのインフレを止めるために、景気を悪化させても利上げや金融引き締めをやらざるを得ない状況に陥ってしまった。
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企業自身が存続できるかどうかも問われることになる?
欧米の中央銀行は2022年になって急激な利上げを繰り返しているのだが、この利上げを要因として株式市場は首を絞められるように下落していき、いよいよ実体経済も「景気後退」という形で悪影響を受けるようになっていく。
2023年は景気後退が襲いかかる年になりそうなのだ。
ちなみに、2000年代に入ってから景気後退は3回あった。ひとつはITバブル崩壊、次にリーマンショックの景気後退、そして2020年のコロナショックによる景気後退である。リーマンショックの不況は非常に深く長く深刻だった。
現在、「すでに私たちは景気後退に突入している」と言う人もいるのだが、この景気後退がどれくらい深くていつ終わるのかは誰にも予測できない。分かっているのは、欧米中露のすべてが景気後退に見舞われれば、日本も当然のことながら巻き込まれていくということである。
日本も物価上昇が続いているのだが、これによって人々の消費はマイナス影響を受けることになり、それはすぐに企業の景気悪化を招く。そして、企業の売上が落ちれば当然のことながら「景気の調整弁」として非正規雇用者がリストラされていく流れになっていく。
いや、その前に企業自身が存続できるかどうかも問われることになる。
中小零細企業の少なからずはコロナ禍でダメージを受けてゼロゼロ融資(実質無利子・無担保の融資)を受けていたが、そのゼロゼロ融資は早ければ2023年の3月から利子の支払いが発生する。
ゼロゼロ融資を借りた中小零細企業の多くは、これほど長くコロナ禍による消費減退が続くとは思っていなかったわけで、2023年も好景気どころか不況に見舞われるのであれば、ゼロゼロ融資の返済が重くのしかかる。
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日本政府が助けてくれると思ったらアテが外れる
物価上昇が定着し、人々の消費が減退し、企業の売上も落ち、ゼロゼロ融資の返済も始まっていき、景気後退が本格的になっていくと、2023年の日本の景気後退も苦しみに満ちたものになってしまうだろう。
もちろん、それはすぐに非正規雇用者に悪影響を及ぼす。「リストラされやすく仕事が見つかりにくい」という二重苦が2023年も続くのである。非正規雇用者だけでなく、個人事業主もフリーランスも景気後退で苦しむ。
では正社員は無事なのか。いや、景気後退の悪影響は正社員にも及ぶ。社会全体の経済活動が萎縮するのだから、企業は守りに入り、今後は正社員の実質賃金が下がったり、ボーナスが大幅にダウンすることになる。収入が激減する。
失職したり収入がゼロになったりするよりはマシかもしれないが、それでも貯金がなかったり、借金を抱えていたり、過大なローンを組んでいたり、分相応なところに住んでいたりすると、すぐに窮することになる。
この数年で「家賃が払えない」という相談が増えているのだが、家賃が支払えない人は景気後退でますます増えてしまうだろう。「住居確保給付金」という制度があるのだが、精神的に追い込まれた人たちが冷静に行政の支援や救済を求めることに気づけるかどうかは分からない。
コロナ禍も低所得層を追い詰めたが、景気後退もまた低所得層を追い詰める。そうやって社会全体が悪くなってしまったら、私たちは誰ひとりとして無事でいられない。しかし、日本政府が助けてくれると思ったらアテが外れるので期待はしない方がいい。
今の日本政府は、もう国民のことなんか考えていない。まず、国民が困窮しようが何だろうが消費税を下げるとか廃止するような選択肢はしない。逆に様々な税金を薄く増税したり、社会保険料を上げたり、逆に年金受給額を引き下げたりして国民から収奪に走る。
日本政府も企業も守ってくれない。自分の首が絞まることも考えて2023年の景気後退に向かわなければ、文字通り路頭に迷うようなことになってしまう。リーマンショックの時の景気後退でも路頭に迷ってしまった人たちが続出したのだから、今回もそういう光景が目の前に現れるのである。