政治家はもう誰も期待できないと国民は思うようになっている。誰を入れても同じならば、アイドル崩れだとか、炎上系のYouTuber候補だとか、陰謀論をまくし立てる怪しいけれど面白そうな候補だとか、そういうのに票を入れて、憂さを晴らそうと思う。暇つぶしになるからだ。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
もはや国民のほとんどは誰も政治家を信じていない
経済が停滞し、失業率が増え、物価が上がっていくと、人々の生活は立ち行かなくなっていき、やがて遅かれ早かれ追い込まれていく。日本もまた、政治の無策と経済の停滞で貧困層が増えているのは言うまでもない。
すでに平均年収が186万円のアンダークラスと呼ばれる貧困層は約1200万人になっているのだが、この人数は物価上昇の中で実質賃金が上がらない中でもっと増えていくことになるだろう。
アパートやマンションも借りられないほどの低賃金で、ネットカフェ暮らしだとかシェアハウス暮らしする若者は社会に定着しているし、いよいよ団塊の世代の大半が75歳以上の後期高齢者になる中で高齢層の貧困も社会問題と化するだろう。
こんな中で広がっているのは、限りない「虚無」である。
2012年頃だったと思うが、安倍晋三氏が選挙に臨んでいた時に「日本を取り戻す」とスローガンを掲げて以来、今も保守の議員は「日本を取り戻す」と雄々しく言っているのだが、もはや国民のほとんどは誰もそんなスローガンを信じていない。
というのも、この30年、日本の政治家たちは日本を成長させることがまったくできず、どんどん他国に追い抜かれて日本を「駄目な国」にしてしまったからだ。かつての夢と希望と成長にあふれた日本を取り戻すことなど、「今の政治家にできない」と見透かされてしまった。
1995年から2019年までの日本の実質GDP成長率は平均して0.9%である。成長率は1%も満たない。しかも、グローバル経済が変調をきたせば、日本はしばしばマイナス成長に陥ってきた。
30年も日本を成長させることができないのであれば、それが今の政治家の限界であるということだ。
【金融・経済・投資】鈴木傾城が発行する「ダークネス・メルマガ編」はこちら(初月無料)
平均賃金はOECDの中で最下位グループの日本
だから、「日本を取り戻す」とか言われても、「何を寝言を言っているんだ。結果も出せない奴がデカい口をきくな」という話になってくる。30年も国民生活を向上させることができなかった政党・政治家が何を言ったところで説得力などない。
この30年の大半を仕切ってきたのは自民党である。責任の大半は自民党にある。では、自民党を下野させて、どこか他の野党に政権を取らせたら日本はまともな軌道に乗るのかと言われたら、それもない。
2009年から2012年までの民主党政権で、国民は「一度くらい自民党以外にやらせるか」と考えてそれを実現したのだが、この民主党がまったく政権担当能力が欠如した最悪の政党だったので、日本は危うく終わりそうになった。
そこで、国民は慌てて自民党に戻したのだが、そうすると安倍第二次政権は想定以上にうまく混乱を収めてくれたので、日本国民の大半は「もう下手に冒険しないでこのままでいいのではないか」と現状維持を望むようになった。
自民党を支持したところで日本を成長させることはできないのは分かっている。しかし「他に選択肢がない」と日本国民はこの時点で冒険をあきらめたのだ。妙な野党を選んで日本が空中分解するよりもマシというのが国民の総意となった。
だから、参議院選挙でも衆議院選挙でも統一地方選挙でも何となく自民党が勝ち続けて、「停滞した政治と経済」がだらだらと続くという状態が続いている。
他国が成長している中で、日本だけが「停滞した政治と経済」が続くというのは、実質的に世界に置いてけぼりにされているのと同じであり、これはまぎれもなく「後退」なのである。
「このままでは、間違いなく日本は先進国から脱落する」という人も増えてきた。そのようなタイトルの書籍も出てくるようになった。実は平均賃金で見ると、日本はOECDの中でも最下位グループにまで落ちぶれているのだ。
すでに経済の最下層にいる国民は先進国のレベルから脱落している。
【ここでしか読めない!】『鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』のバックナンバーの購入はこちらから。
日本を貧しくして「名門家系」もへったくれもない
要するに、日本は政治がどうしようもないことになっているのだ。自民党も野党もまったく期待できず、現状維持を願って自民党に託しても、自民党はもはや現状維持すらもできない。そういう現状なのである。
だから、そこらへんの議員が「日本を取り戻す」と言っても失笑されるばかりなのだ。日本の政治家はもう何も期待されていない段階に入っている。
もう誰を入れても同じならば、アイドル崩れだとか、炎上系のYouTuber候補だとか、陰謀論をまくし立てる怪しいけれど面白そうな候補だとか、そういうのに票を入れて、憂さを晴らそうと思う国民も出てくる。暇つぶしになるからだ。
それこそ若者なんかは、国会で熟睡して高給をかっさらっていく高齢議員や、親の地盤・看板・鞄(資金)をもらってエスカレーター式に議員になる無能の世襲議員には腹立たしく思っている。
日本の議員は世襲が異様に多いのだが、政治家の家系であっても別に彼らは特別でも何でもない。家系が何だろうが、名門だろうが何だろうが、議員はたたの一般人である。威張るほどのものではない。
それで成果があれば誰も何も言わないが、どんどん日本を貧しくしているのだから「名門家系」もへったくれもない。時代によっては吊し上げられる対象だ。
成果を出せない経営者が株主総会でクビになるように、政治家も本来は日本を成長させることができないのであれば誰でもクビになるべきなのだ。しかし、政治家がどんなに駄目でも、「代わりがいない」ので仕方なく消去法で選ばれている。
それが今の状況だ。
【マネーボイス】読むと世の中がクリアに見える。鈴木傾城の経済を中心とした必読の記事がここに集積。
これは「政治への絶望から来る自傷行為」ではないか?
それならば、おもしろおかしい候補者にでも入れて国会で暴れてもらった方が良いと思う。政治的な成果なんか彼らには求めていない。場違いな人間を送り込んで、場をめちゃくちゃにしてもらいたいと思っているのである。
良識を持った大人は、もちろん「そんな遊び半分の無能な候補者を国会に送り込んでどうするのか。政治がめちゃくちゃになるではないか」と怒る。
いや、そもそも「まともそうな候補者」を国会に送り込んでも、日本を経済成長させることもできていないし、影響力ある国にすることもできていないし、社会問題をどんどん解決することもできていないのだ。
だから、どうせ何もできないのであれば「遊び半分の無能な候補者を国会に送り込んだ方が暇つぶしになる」と、政治を「見せもの小屋化」させようとしているのである。ある意味、この現象は「政治への絶望から来る自傷行為」ではないかと考える。
「アイドル崩れだとか、炎上系のYouTuber候補だとか、陰謀論をまくし立てる怪しいけれど面白そうな候補」が、まともな政治をしてくれるとは思えないが、国会を無法地帯にして機能不全にしてしまうくらいの仕事はできるだろう。
「何もできない政治なら、ぐちゃぐちゃにしてしまえ」という潜在意識が、チンドン屋みたいなおかしな議員を大量に生み出しているのであるとするならば、これは議員を使った国民の自傷行為であるとしか言いようがない。
こういうのを見ていると、まさに日本は政治的末期状態に入っているとも言える。
「もう日本は終わったな」と感じて、粛々と資産逃避(キャピタルフライト)している人もいるのだが、それと同時に静かに日本を捨てて海外に脱出している日本人も増加しているのは不思議でも何でもない。
永住者は俯瞰して見ると一方的に増え続けており、すでに2022年の時点で過去最高の55.7万人に達していると報道もあった。これは驚くことでもない。当然の帰結だ。
30年も日本を成長させることができない政治が続くのだから、日本を見捨てる日本人が増えるのは合理的な人の動きでもある。静かに、日本をあきらめる動きが起きている。そういう局面に入ったということだ。