日本の貧困と荒廃。ピラミッドの頂点にいる人間は憎悪の対象となり敵と化す

日本の貧困と荒廃。ピラミッドの頂点にいる人間は憎悪の対象となり敵と化す

政治家やエリート層や経営者や富裕層だけがますます富んでいき、持たざる者がその輪から排除されるようになっていくと、ピラミッドの頂点にいる人間たちは憎悪の対象となり敵と化す。数からすると、エリートやエスタブリッシュメントの総数は極度に少なく、持たざる層は圧倒的に多い。だから、圧倒的少数の「頂点」はまわり中が敵となる。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

家賃が高いだけで、住む人は簡単に「分離」できてしまう

政治家やエリート層や経営者、あるいは富裕層が、自らの私利私欲のみを追及して「経済的に脱落していく人間のことなんか知るか」と言っていると、最終的にはどのような光景になっていくのか。

すでに超富裕層は何千億円もの資産を持つのが当たり前となり、中には「兆」の単位の資産を持つ人間も出てきている。

一方で、グローバル化やITによる合理化が突き進んだ結果として人々の可処分所得は下がっていき、中には金融資産をまったく持たず、生活保護で何とか息をしている人たちやホームレスと化してしまった人たちも大勢いる。

これが突き進む先は「分離」だ。

超富裕層はロケーションが良くて地価の高い地域《エリア》に豪華絢爛な邸宅や都内の超豪華なタワーマンションに集まって暮らすようになり、貧困層はどんどん土地の安い場所、劣悪な場所に移り住むようになる。

別に「金持ちはこちらに住め、貧困層はあっち側に住め」と誰かが命令するわけではない。そして、住む場所が強制されるわけでもない。しかし、月収が20万円程度の人には、家賃が一ヶ月100万円以上もする超高級物件には絶対に住めない。

100万円以上どころか、月収20万円程度だと家賃15万円の物件も厳しいだろう。とすれば、家賃が高いだけで、住む人は簡単に「分離」できてしまうのである。

こうした高級地区《エリア》は、金持ちが住み、環境が整備されているので非常にハイセンスな雰囲気となる。分離がまだ甘い時や分離の過渡期は「ハイセンスな街」「住みたい街」みたいな言われ方をするようになる。

住めない人間には、多少の嫉妬や羨望がそこにある。しかし、自分も成功したら「あちら側にいけるかも」という何となく淡い思いも同時にある。今の日本はそのような状況だ。しかし、「分離」がさらに進んでいくと、「ハイセンスな街」「住みたい街」に対するイメージは悪化する。どういうことなのか?

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「あちら側」に到達することができないと生まれる感情

経済格差による人間の「分離」がますます深いものとなり、もはや持たざる人間が持つ側に成り上がるのが不可能な環境になっていくと、「ハイセンスな街」「住みたい街」に対する羨望は消える。

その代わりに生まれるのは「憎悪」である。

乗り越えることができない資本の壁が決定的になると、自助努力や向上心の哲学は失われていく。なぜなら、いくらコツコツ自助努力しても、「あちら側」に到達することができないからである。

「努力すればあちら側にいけるかも」という淡い期待は現実に押し潰され、自助努力や向上心が馬鹿馬鹿しくなる。

「一生懸命に勉強して有名大学に入って卒業したら前途洋々の未来が待っているのだから、勉強したらいいではないか」と言われても、あちら側の人間は大金を大学や大学教授に支払って裏入学して努力もなしに学歴を得たりする事実も見聞きするようになって、ますます馬鹿馬鹿しくなる。

企業はうまく税金を回避して内部留保を膨らましていくが、国民は所得税を天引きされた上に消費税という網をかけられ、国民年金という見えない税金も取られて手取りは驚くほど少なくなる。

企業の創業者や株主は企業の株式を大量に保有して、たっぷりと配当をもらって肥え太っていくが、一般国民は株式はほとんど保有せずに銀行預金のケシ粒のような利息で貯金が増えることはまったくない。

経営者はお手盛りでどんどん自分の賃金を引き上げていき、年収が億単位になる経営者も大勢いるのだが、従業員は「コスト」扱いされてリストラされ、再就職は非正規雇用の仕事しか見つからず、企業から使い捨て要員にされた上に派遣会社には中間搾取される。

そのような現状の中で、「経済的に脱落していく人間のことなんか知るか」という態度を表す成功者も大勢出てくる。

当然、持たざる者は、社会のあり方に大きな不満を持つようになる。そして不満が極限まで行き着くと、どん底《ボトム》に落ちた人間の心に「憎悪」が芽生えていくのだ。

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ゲートシティの内部は清潔と安全と安心が保たれる

一部の人間だけが、うまくやっている。
一部の人間が、持たざる人間を嘲笑する。

政治家やエリート層や経営者や富裕層だけがますます富んでいき、持たざる者がその輪から排除されるようになっていくと、ピラミッドの頂点にいる人間たちは憎悪の対象となり敵と化す。

数からすると、エリートやエスタブリッシュメントの総数は極度に少なく、持たざる層は圧倒的に多い。だから、圧倒的少数の「頂点」はまわり中が敵となる。憎悪の対象であり、敵なのだから、いつ襲われるのか分からない。

だから、彼らは自分たちの住む地域《エリア》のセキュリティをひどく気にするようになる。そのエリアはセキュリティの門《ゲート》をくぐらないと入れないような仕組みになる。

それが「ゲートシティ」である。

貧困層が増えると犯罪も増えて治安が悪化するのだが、ゲートシティの内部は清潔と安全と安心が保たれる。自分たちを憎悪する人間、敵が排除されるからである。そのゲートシティの中で暮らしている限り、「見苦しいどん底《ボトム》の人間たち」と会うこともない。

実際、中南米は凄まじく貧富の差が広がったせいで、エスタブリッシュメントはゲートシティから出ないで生活しており、子供たちがゲートシティから出る時はボディーガードが付く。

富裕層は攻撃対象になるので、大金を手に入れたまま自分たちは「籠の鳥」のように生きるしかなくなる。その「籠の鳥」が政治・経済の実権を握っているので、彼らはますます自分たちが有利になるような社会を構築し、それは成功する。

しかし、多くの貧困層がわずかなエスタブリッシュメントに富も権力も安全も安心も奪われるのだから、誰も国を支えようとしなくなる。結局、そうした激しい格差が生み出す「分離」は最終的には国家崩壊に結びつく。

ただし、「ゲートシティ」が生まれたからと言ってすぐに国家崩壊に結び付くわけではない。いったん生まれた階級はかなり長期間に渡って続くと考えた方がいい。

最近、日本も貧富の差がどんどん開くようになっている。貧困に落ちている側の閉塞感や絶望感はコロナ禍で増幅されている。

にも関わらず政治家やエリート層や経営者や富裕層は、税金を取り立て、利権を追い、自らの私利私欲だけは強烈に追っている。ゲートシティを作れば問題ないように思っているかもしれないが、分離と憎悪の先には国家の荒廃しかない。今の日本は、その荒廃に向けて突き進んでいるように見える。

日本の行く末が思いやられる。

書籍
『ボトム・オブ・ジャパン 日本のどん底(鈴木 傾城)』

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