そのどれもが超巨大企業であり、それぞれが十数万人もの社員を抱え、さらにはそのグループ会社、子会社、孫会社が存在する。その上に、アメリカ政府もまた約150万人もの兵士を抱えている。
軍需産業は戦争をするために存在している。世の中が完全に平和になって兵士を抱える意味がなくなれば、一瞬にしてアメリカは失業者の群れで覆い尽くされる。
アメリカは軍需産業を養うために、戦争をしなければならない国家である。
アメリカが世界中のあちこちの紛争に介入するのは、別に世界の警察官であろうとしているわけではない。アメリカが世界の紛争に介入するのは、軍需産業を生かす機会と覇権を増長させる機会を探っているからだ。
「正義だ、民主化だ」というのは表向きの建前である。
それは、中国のチベットやウイグルの人権弾圧を見て見ぬふりをしたり、超絶的な人権弾圧国家である北朝鮮を放置し続けてきたのを見ても分かる。(鈴木傾城)
「戦争」はアメリカを支える重要な収益の柱だった
アメリカの「金儲け」はいくつもの柱がある。金融で利益を上げる柱もあれば、イノベーションで利益を上げる柱もあれば、一般消費財・生活必需品で利益を上げる柱もある。
そのどれもが巨大な産業であり、アメリカに大きな富をもたらし続けている。しかしアメリカの富の源泉は他にもある。
「戦争」だ。
戦争はアメリカの重要な収益の柱であり、これがアメリカの覇権と結びついて大きな影響力を持つ。
アメリカは戦争によって、他国の資源や石油利権を手中にすることができる。あるいは、アメリカの政治力・影響力・文化力を定着させて、その地区を完全にアメリカの市場にすることができる。
戦争で他国を実質的に占領することによって、そこにアメリカの多国籍企業を定着させて複合的かつ重層的な収奪構造を作り上げることができる。それがアメリカを富ませるのだ。
覇権は「儲かる」からそれをしている。アメリカは戦争で大きな利益を手にする国家である。
しかし、戦争による利益や利権は「完璧な勝利」を収めないと手に入らない。失敗すれば利益を得るどころか巨大なダメージを負うことになる。
アメリカは2000年代にアフガニスタン・イラクに侵攻したが、この戦争は完璧な勝利とは程遠く、ゲリラ戦の泥沼に陥って得るものが何もなかった。
折しも2008年にはリーマンショックが発生して、もうひとつの柱である金融分野にも激震が走った。だから、アメリカはこの失敗の痛手が癒えるまで何もしないで「体力回復」を待つしかなかった。
このリーマンショックから10年目に入る。アメリカの株式市場も不動産市場も労働市場も回復しており、傷は癒えたと見ることができる。
そして、2017年1月20日、アメリカは「何もしない大統領」バラック・オバマから、「何をするのか分からない大統領」ドナルド・トランプに変わった。
ドナルド・トランプ大統領は、側近をどんどん強硬派や軍人で固めるようになっており、今までの大統領には見られないほどの強硬発言を繰り返している。
自分たちが育て上げ、最後に叩きつぶす手法?
アメリカは第二次世界大戦の終結後もずっと戦争をしてきた。建国されてから今日まで、90%以上もの年月をアメリカは戦争していたのである。(ブラックアジア:「自由はただではない」という言葉の裏には何があるのか?)
バラック・オバマ時代のアメリカが戦争を避け続けたのは、アメリカがいきなり平和主義になったのではなく、単にアメリカ経済が傾いていたので建て直す時間が必要だったからだ。
その間も軍需産業は稼働し続けてきた。この軍需産業が武器弾薬を積み上げたまま、何年も寝かせるわけがない。つまり、アメリカは、そろそろ次の「大戦争」を仕掛けても不思議ではない時期にきている。
戦争はひとりではできない。必ず、相手が必要だ。その相手はアメリカの軍需産業が積み上げた武器弾薬を全部払拭できるくらいのスケールの大きな相手でなければならない。
3日や4日で終わるような戦争では駄目だ。長く続いて、大量の弾薬が消費できるくらいの相手でないとならない。今の世界にそんな相手がいるだろうか。アメリカに取って代わろうとする傲慢な大国はあるのだろうか。
今、アジアにそんな国が出現している。中国である。
ドナルド・トランプはかねてからピーター・ナヴァロ氏を深く信頼しているのだが、このナヴァロ氏は現代で最も優れた政治学者であり、中国の傲慢な手法について常に警鐘を鳴らすアメリカの「良心」だ。(ダークネス:「モリカケ報道→倒閣→日本破壊」がマスコミのシナリオだ)
さらに国務長官には「超強硬派」のマイク・ポンペオ氏を新たに据えて、大統領補佐官にも中国を明確に敵視するジョン・ボルトンを揃えた。
そして、いよいよ2018年3月22日にトランプ大統領は中国に対して関税を含む制裁措置を発令して、中国に対して実質的な「宣戦布告」をしている。
「敵を育てて最後につぶす」というアメリカの手法
アメリカは2003年にサダム・フセインを叩きつぶしたが、このサダム・フセインは、かつてアメリカの子飼いだったことはよく知られている。
サダム・フセインという独裁者を育て上げたのは、アメリカだったのである。そして、イラクがほどほどに大きくなったところでつぶしにいった。
自分たちが育て上げ、最後に叩きつぶす。
アルカイダやビンラディンも元はと言えばアメリカの子飼いだったが、ほどほどの勢力になったところで敵だと認定して、つぶしにいった。
やはり自分たちが育て上げ、最後には容赦なく叩きつぶしていったのである。
では、現在の中国に資金提供し、経済発展を促していたのは誰か。言うまでもなくアメリカだった。中国の四大銀行のすべては、当初はアメリカの投資銀行の資金が入っていた。
中国の石油企業も、それが巨大産業になるようにアメリカの石油会社は、わざわざアフリカ市場を「譲って」いる。
中国の製品は粗悪品の毒まみれだが、それでもアメリカは中国にアメリカ市場を開放し続けてきた。安売りのダンピングで伸びていっても、好きにさせていた。
中国はモンゴル・チベット・新疆ウイグルでは凄絶な民族浄化や大弾圧を行っている。そんなことは、世界中の誰もが知っている。しかし、人権国家を標榜するアメリカは、まったくそれに触れようともしなかった。
それだけではない。中国は台湾・日本・フィリピン・ベトナムと次々に領土問題を引き起こしているが、アメリカは曖昧な態度に終始して、中国の好きにさせていた。
中国が世界の軍事的脅威になっているにも関わらず、アメリカはまったく動かなかったのだ。オバマ前大統領に至っては、アメリカは中国に資金と技術を移植して、「これからはアジアの時代だ」とおだて上げた。
その結果、中国は「自分たちこそが次の覇権国家だ」と叫ぶようになり、今や何の遠慮もなく危険な拡張主義を取るようになっている。
しかし、サダム・フセインやオサマ・ビンラディンのやりたい放題をずっと放置して彼らが引けないところにまできたとき、アメリカは一気に彼らと敵対化して「叩きつぶしにいった」のは私たちは忘れていない。
「敵を育てて最後につぶす」という軍需産業のルーチンワークが、今まさに中国という国家に対して行われているのだとすると、これから何が起きるのかおおよそ分かってくる。
いよいよ中国は、アメリカの標的と化したのだ。(written by 鈴木傾城)
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軍需産業は戦争をするために存在している。世の中が完全に平和になれば、アメリカは失業者の群れで覆い尽くされる。アメリカは軍需産業を養うために、敵を見つけて戦争をしなければならない国家なのだ。では、アメリカの次の敵は誰なのか。それは「中国」である。https://t.co/6vRkPrPyVr— 鈴木傾城 (@keiseisuzuki) 2018年3月26日
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