アメリカの軍産複合体が戦争を必要としており、アメリカ政府は戦争を厭わない

アメリカの軍産複合体が戦争を必要としており、アメリカ政府は戦争を厭わない

現在、アメリカは中東に足を取られているが、アメリカの覇権に挑戦するようになった国として「中国」が大きく台頭しつつある。アメリカはトランプ大統領になってから、中国を「アメリカの敵」であることを隠さなくなった。今、アメリカは中国をグローバル経済から切り離しているところだが、そのさらに先は何かあると思わないだろうか。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

私たちの想像を絶する数の軍事企業がそこにある

2020年1月3日。イラクのバグダッドで、イランのガセム・ソレイマニ司令官がアメリカの無人攻撃機MQ-9リーパーによって爆殺されている。

アメリカは19万人以上もの兵士を世界各国に送り込んでいるのだが、トランプ政権はそのうちの約半分を中東に配置している。イラクはアメリカ軍が広大な軍事作戦を繰り広げている最前線となっており、このイラクにソレイマニ司令官の殺害に使われた無人攻撃機が飛び交っているのだった。

無人攻撃機MQ-9リーパーは、「ジェネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ社」という私たちには馴染みのない非公開の軍事企業が製造している。

この会社の親会社が「ジェネラル・アトミックス社」である。社名の「アトミックス」は「原子力」の意味だが、この企業は原子力潜水艦を製造している企業だったのだ。やはりアメリカになくてはならない軍事企業である。

さらに言えば、この「ジェネラル・アトミックス社」は、アメリカの超巨大軍事企業である「ジェネラル・ダイナミクス社」からスピンアウトした企業だった。ジェネラル・ダイナミクス社は世界でも有数の軍事企業で、戦車・装甲車・戦艦・潜水艦・戦闘機・レーダーシステム等々をアメリカ軍に提供している。

しかし、アメリカ軍は、ジェネラル・ダイナミクス社だけに依存しているわけではない。私たちの想像を絶する数の企業が「軍事」で関わっている。

アメリカ軍の総本山は「国防総省」、通称ペンタゴンだが、このペンタゴンが直接的に契約している軍事企業「プライム・コンストラクター」と呼ばれる企業群は約2万社ある。そして、この軍事企業がさらに下請け企業や孫請け企業を使っているのだが、それが1万2000社近くある。

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アメリカという国の中心に軍産複合体が存在している

それだけではない。アメリカの国防総省には他にも多くの民間組織、たとえばグーグル、マイクロソフト、アマゾン、オラクルのようなIT企業、さらに石油企業、各大学、シンクタンク、銀行が関わっている。

アメリカの軍事関連のビジネスは広く、深く、民間と協力関係を持っており、切り離すことができない。こうした軍事関連の企業集団をすべて合わせたものを「軍産複合体」と呼ぶ。

これがアメリカで最も大きな影響力を持つ組織である。

アメリカは戦争が切れない国なのだが、その理由はアメリカという国の中心に軍産複合体が存在しているからでもある。この巨大組織は、兵器を研究し、作り出し、維持し、消費しなければならない。

アメリカは常に世界を見回し、自分たちの敵を見つけ、積極的に紛争や戦争を仕掛け、そこに深く介入していく。ジャスミン革命からカラー革命からテロ戦争まで、その裏側には必ずアメリカの影があった。

戦争によって経済を回す。これを「ウォー・エコノミー」と言う。日本語で言えば「戦争経済」である。戦争は悲惨な殺し合いであり、街の破壊であり、悲劇を大量に生み出す行為だ。

こんなものがなぜ「経済」に結びつくのか。

戦争に巻き込まれた人間はただ死んでいくだけだ。しかし、戦争を仕掛ける側は兵士に武器・弾薬を供給し、それらがどんどん使い捨てで消費されることによって、次から次へと武器・弾薬を売ることができる。

兵器産業はフル回転し、どんどんカネが入る。兵士に提供する衣服や食料、輸送、医療、エネルギー。戦争に関わる企業のすべてが濡れ手に粟の大儲けになる。日本人だけが知らない事実がここにある。

戦争は「儲かるビジネス」なのである。

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ウォー・エコノミーは莫大な利益をもたらす

さらに戦争は巨大な破壊を伴うので、戦争が終われば今度は復興事業が潤うことになる。戦勝国の企業は敗戦国に入り込んで、次々と復興事業に関わってここでも大儲けしていく。

その国に資源があれば、今度はアメリカの資源企業がそこに入り込んで権益を独占する。そして、その資源の独占を通してアメリカという国家もより肥えていく。

これが「ウォー・エコノミー」の正体である。

壊す過程で儲け、復興の過程で儲ける。こうした金儲けは「スクラップ・アンド・ビルド」と言われるが、これがうまく当たると、ウォー・エコノミーは莫大な利益をもたらすのである。

ただ、条件がある。それは「絶対に戦争に勝つこと」である。戦争に負けてしまえば自分たちがスクラップ(破壊)されて、甚大な被害を被ることになる。

アメリカがベトナム戦争終結後に未曾有の経済不況に陥ったのは、戦争に負けて「スクラップ・アンド・ビルド」が回らなかったからだ。

アメリカが2001年のアフガニスタン戦争、2003年のイラク戦争で泥沼に陥って2008年9月15日のリーマン・ショックで金融崩壊しそうになったのも、「スクラップ・アンド・ビルド」が回らなかったからだ。

アメリカは意気揚々とベトナムやアフガニスタンやイラクのような「小国」に戦争を仕掛けたのは勝てると思ったからである。しかし、アメリカの思惑通りには運ばなかった。

これらの戦争でアメリカは敗北を喫して軍産複合体は儲かっても、アメリカ国家自体は巨大なダメージを受けたので、結果的には政府から仕事をもらう軍産複合体もダメージを受ける。

戦争は勝たなければならないが、アメリカは勝てなかった。それがアメリカを国家的な困難を招いてしまった。ウォー・エコノミーにはそうした負の側面もある。

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戦争への仕掛けを行っているとしても何ら不思議ではない

アメリカはドル基軸通貨によって世界を支配している。しかし、反米国家はドルのくびきから逃れようとする。ドルの支配が続く限り、アメリカの言うことを聞かざるを得ないからである。

そうした反米国家の反米政権を倒すにも軍事力がいる。アメリカから軍産複合体が消えないのは、ドル基軸通貨の維持のためでもある。

ドル基軸通貨を切り崩そうとしたり、アメリカに対抗できるほどの巨大な軍事力と経済力を持つ国があると、アメリカは必ず叩き潰すために「戦争」を仕掛けていく。それがアメリカの体質なのであれば、いずれはどこかで「戦争」が起きる。

アメリカは戦争を恐れていない。しかし、アメリカが戦争に動くのであれば、それは必ず勝てる戦争でなければならず、さらに「スクラップ・アンド・ビルド」が回る戦争でなければならない。

そのためにアメリカは「どこでどのような戦争を仕掛ければ自分たちが勝って儲かるのか」を虎視眈々と狙っている。

現在、アメリカは中東に足を取られているが、アメリカの覇権に挑戦するようになった国として「中国」が大きく台頭しつつある。もし巨大な「スクラップ・アンド・ビルド」による巨大な市場が望める国があるとしたら、中国は申し分のない国であるとも言える。

アメリカはトランプ大統領になってから、中国を「アメリカの敵」であることを隠さなくなった。今、アメリカは中国をグローバル経済から切り離しているところだが、そのさらに先は何かあると思わないだろうか。

アメリカの軍産複合体はウォー・エコノミーを必要としている。アメリカが意図的に中国を追い込みながら、紛争・戦争への仕掛けを行っているとしても今までのアメリカの動きから見ると不思議なものではない。

香港の激しい反中・反政府デモも「アメリカが裏側で支援している」と中国政府はアメリカを批判しているのだが、それは中国政府の被害妄想だろうか。必ずしもそうとは言えない。アメリカは紛争を「逃さない」国である。あるいは紛争を「仕掛ける」国である。

中国の「攻略」のために、アメリカの軍産複合体が香港を突破口にして動いている過程を私たちは見ているのかもしれない。

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