貯金がなく仕事もできないゴールデンウィークは、困窮者にはヘルウィークだ

貯金がなく仕事もできないゴールデンウィークは、困窮者にはヘルウィークだ

連休を楽しむためにはそれなりの蓄えが必要だが、経済的に逼迫した人や家庭は楽しむどころではない。楽しむどころか「どうやって生き残ろうか」というサバイバルになる。今回は通常のゴールデンウィークに緊急事態宣言も重なった。これから地獄に突き落とされるも同然だ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

切られるのは間違いなく「非正規雇用者」である

ワクチン接種が遅々として進まない中で、コロナ禍はどんどん悪化している。ワクチンの効かない二重変異株、三重変異株も登場して事態が混沌としつつある。

今回のゴールデンウィークは、東京・大阪・兵庫・京都の4都府県の緊急事態宣言と重なっており、政府は人々に自粛するように要請している。この緊急事態宣言は2021年4月25日から5月11日まで続く。

飲食店に加えて大型商業・遊興施設(百貨店やショッピングモール、映画館など)への休業要請も行われている。

飲食チェーン店では、いくつかの店が酒の提供をやめて営業時間を午後8時までに短縮に入った。

イベントの中止や延期も要請されている。これを受けて、東京スカイツリー、大阪ユニバーサル・スタジオ・ジャパン、サンリオピューロランド、よみうりランド、その他多くの博物館・美術館・ミュージアム等々が臨時休業に入っている。

大型の家電店も25日から臨時休業に入ってしまったところが多く、ホテルについても多くが休業に入った。

今回のゴールデンウィークでは人の流れが制限されると共に、多くの店が臨時休業してしまうので、零細企業の多くは一時的な保証金をもらっても事業が継続することができなくなってしまい、再び苦境に追いやられていくことになる。

そうなれば、切られるのは間違いなく「非正規雇用者」である。

今回のゴールデンウィークで非正規雇用や日給で仕事をしている人たちは、場合によっては二週間も仕事がない。そのため、収入が極度に減る。常にギリギリの生活をしているところに二週間も仕事がなくなるのだ。生きるか死ぬかというレベルにまで追い込まれる。

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どん底《ボトム》では生きるか死ぬかのサバイバルになる

連休を楽しむためには「それなりの蓄え」が必要だが、経済的に逼迫した人や家庭は楽しむどころではない。ゴールデンウィークのような長すぎる連休は、楽しむどころか「どうやって生き残るべきか」というサバイバルになる。

今回は通常のゴールデンウィークに緊急事態宣言も重なったのだから、仕事がなく貯金もない人たちにとっては、まさにこれから地獄に突き落とされるも同然だ。

連休を素直に喜べるのは「貯金のある中流階級以上」の世帯である。あるいは、コロナ禍でも収入が減らないIT業界等の運の良い業種に就いている人たちである。アンダークラスになればなるほど、ゴールデンウィークと緊急事態宣言が生きるか死ぬかのサバイバルになってしまう。

2020年のコロナ禍の中で「シフト勤務」という名の「シフト休業」に入ってしまったシングルマザーの女性に話を聞いたことがあるのだが、彼女はもはや子供たちに満足に食べさせるものがなくなて「モヤシばかり食べていた」と私に言った。

そして、甘い物が欲しくて子供がぐずると「公園に連れて行って花の蜜を吸っていた」というのである。日本のどん底《ボトム》では、もう日本が先進国なのかどうか怪しい状況である。

厚生労働省『国民生活基礎調査』のデータでは日本の貧困率は15.6%であり、これを人数にすると1970万人になる。これはコロナ以前のデータなので、現在の貧困率はこれよりも間違いなく上昇している。

コロナ禍で苦境に落ちた人も加味すると、少なくとも約2000万人近くの人がゴールデンウィークに困惑しているのではないかと思われる。

2019年にエクスペディア・ジャパンが行った『ゴールデンウィークに関する意識調査』によると、ゴールデンウィークが「嬉しくない」と答えた層は46%もいた。喜んでいるのは公務員や学生だったが、個人事業主やパート・アルバイト等の非正規雇用者はほぼ「嬉しくない」だった。

長い休みが収入源に直結してしまうのだから、それを素直に喜べるわけがない。今年はなおのことキツいことになっている。

こうした国民の苦境の中でも政府は特別一時給付金を出そうとはしないし、消費税を減税する予定もない。

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増え続ける困窮者を救済しようとする意志は持っていない

政府はすでに莫大に増え続ける困窮者を救済しようとする意志は持っていない。

麻生太郎副総理は「特別一時給付金を再び出すつもりはない」と明言しているし、菅義偉首相は「生活に苦しむ人たちは最終的には生活保護という仕組みがある」と述べて、生活保護を受けろと言っている。

しかし、この生活保護だが、誰でも受けられるような制度ではないし、誰もが「困ったらすぐに受ける」精神状態にあるわけでもない。(ブラックアジア:「生活保護を受けた方がいい」と言っても、頑なにそれを嫌がる人がいる理由

上記のリンクにも書いたが、改めて述べると以下のような理由があって、生活保護を逡巡する人も大勢いる。

  • 助けてもらうのは「恥」、プライドが許さない。
  • 持っている不動産・自動車等を失いたくない。
  • 自分が悪いのだから、受ける資格がないと考える。
  • 生活保護を受けるのは負けだと思う。
  • 知的障害などで制度の利用の仕方がよく理解できない。
  • 離れて暮らす親兄弟や疎遠な親戚に連絡して欲しくない。
  • 「働けるのだから働け」と言われるようで怖い。
  • 区役所や、行政の手続き、説明をする気力も体力もない。
  • 税金に寄生していると思われるのが嫌だ。
  • 誰かと関わるのが怖い、できない。
  • 最初から自分にはもらえないとあきらめている。
  • 過去や経歴を思い出したくも説明したくもない。

特に問題になっているのは、「扶養照会」である。親兄弟や親戚に「金銭的な援助や同居ができないだろうか」と福祉事務所から連絡される。親兄弟と折り合いが悪かったり、心配かけたくないということで、それだけは嫌だという人も大勢いる。

そんなことをされるくらいなら空腹でも我慢するし、ホームレスになった方がまだマシだと思う人もいる。中には自殺してしまう人もいる。コロナ禍では自殺者も増えているのだが、この流れはまだまだ続くだろう。

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経済格差は「長い休みを楽しめるか?」という部分にも現れる

日本はすでに2000万人ほどが「長い休みを素直に味わえない」という状態になっている。貯金と仕事がなくなる人にとって、長い休みは死に直結するほど危険な状況である。「ゴールデンウィーク」は「ヘル(地獄)ウィーク」なのだ。

しかし、緊急事態宣言も含んだ長い連休をやりたいことをしながら楽しめる世帯もいることは知っておく必要がある。地獄の沙汰も金次第だ。金の有無によって、天国と地獄が分離している。

金がある人は、ステイホームであっても広く快適な家の中で、欲しいものをネットショッピングで買い、インターネットで有料のコンテンツを楽しみ、おいしいものが食べたくなったら、ネットで注文して低賃金ウーバーイーツの配達員に届けてもらって楽しめる。

彼らは休みをのびのびと暮らせる。

こうして連休を楽しんでゆったりと暮らしている人は、いったいどうやって明日を暮らそうかと考えている人のことなど思い浮かぶこともないはずだ。連休が入ることによって生活が危機に陥る人がいるという想像ができない。

逆に、連休中に金のやりくりで苦しむ人は自分のことで精一杯だ。どうやって生き残るか、どうやって空腹を耐えるか、不安と恐怖でいっぱいになっている。長い休暇を楽しんでいる人たちのことなど遠い世界の話だと思っているはずだ。

この分離を社会は「経済格差」と呼ぶのだ。

日本で広がっている経済格差は「長い休みを楽しめるか?」という些細なところにも顔を出している。

互いに相手のことが分からないので、一方は「長い休暇が楽しめないというのはおかしな人たちだ」と思い、もう一方は「長い休暇が地獄だと分からない人はのんきな人たちだ」と思う。

経済格差が固定化し、それが解消されなくなると、日本社会は「金の有無」によって確実に分離されていき、互いに相手が理解できなくなる。理解ができなくなると、分離して無関心になる。

それが今の日本で起きていることでもある。

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