もう会社は「役に立つ人材を必要な時だけ雇う」という考え方にシフトにしている

もう会社は「役に立つ人材を必要な時だけ雇う」という考え方にシフトにしている

社員をリストラするのも、非正規労働者を増やすのも、労働環境をブラック化させて社員を死ぬまでこき使うのも、ジョブ型雇用に転換するのも、すべてコスト削減のためである。だから、特別なスキルを何も持たない人は注意して生きなければ恐ろしいことになってしまう。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた

著書『亡国トラップ─多文化共生─』でも触れたが、現在起こっている経済を巡る社会現象は、

・賃金の安い国に工場を建てるというグローバル化
・賃金の安い国から労働者を連れてくるという多文化共生

の二点である。この二点はどちらも企業が労働者の賃金を引き下げる動きであることは理解しておく必要がある。「グローバル化」と「多文化共生」が大々的に進められているのは、企業がコストを下げてもっと儲かりたいためである。

この二点によって「人類の融和を進めたい」だとか「理解・友情・親睦を進めたい」とか、そんなものはまったく関係ない。ただ「人件費を削減してもっと利益を上げたい」という企業の姿勢の総体に他ならない。

グローバル化と多文化共生は、まさに「亡国に至るトラップ」なのである。

そういうわけで、給料はどんどん下げられており、この流れはこれからも続く。雇われて働く人々は、エリートやスペシャリストを除いた大半が、生活できるかできないかのギリギリにまで追い込まれていく。

2000年に入る頃まで、日本企業は慣習で年功序列と終身雇用を維持しようと努力してきた。だから、日本人の従業員の多くは、給料が右肩上がりになるのは当たり前だと思い込んでいた。

しかし、多くの企業はグローバル化による激しい競争と長引く不況で、日本経営の特徴であった年功序列と終身雇用が維持できなくなってしまった。

トヨタですらも、豊田章男社長は2019年の段階で「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と述べているのである。

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「役に立つ人材を必要な時だけ雇う」という考え方にシフト

メガバンクを見ても分かるが、すでに大手企業のリストラは恒常化している。黒字を出している企業ですらもリストラする。たとえば、ソニーですらも「早期転進支援の実施」と言ってリストラをしているのだが、ソニーは2022年3月期は過去最高の売上高と営業利益を達成しているのである。

黒字でさえもリストラするのだから、業績が少しでも落ちたら容赦ない。今後、世界はリセッション(景気後退)がやってくる可能性もあるが、リセッションは企業収益の悪化をもたらす。そうなると、リストラはますます加速するだろう。

そして、これから採り入れられるのが「ジョブ型雇用」である。(マネーボイス:富士通の9割「ジョブ型雇用」転換がもたらす大格差社会。特技を持たない平凡な社員が低賃金に落ちていく=鈴木傾城

これによって、企業と従業員のドライな関係はますます加速するのではないか。

ジョブ型雇用も「仕事に対して賃金を払う」雇用形態なので、仕事がなくなれば従業員も要らなくなるので切り捨てられる。ジョブ型雇用は「仕事があれば専門家を雇うし、仕事がなくなったら辞めてもらう」というものなのだ。

この「ジョブ型雇用」が進んでいくということは、要するに「ますます一つの会社に居られなくなる」ということなのである。日本の社会がこれから「ジョブ型雇用」に転換するということは「日本社会が完全に変わる」ことであると理解していない人が多いが、早く気づいた方がいい。

もう会社は「役に立つ人材を必要な時だけ雇う」という考え方にシフトしている。

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「賃金を上げろ、待遇を良くしろ」と抗議デモをすると?

「ジョブ型雇用」では役に立つ人材が高給で雇われ、どうでもいい仕事は低賃金でやってくれる非正規の人間で済ませて使い捨てする。専門的な技術を持っている人間は高い賃金を取れるが、何も持たない人間は短期アルバイト的な扱いとなる。

こうした仕事は、ギリギリまで賃金が下げられていくことになる。

今でも「グローバル化」と「多文化共生」で格差が広がるばかりなのだが、ジョブ型雇用になると、もっとひどいことになる。「給料が低いからやってられない」という声は、日増しに大きなものになっていく。

その中で、やってられないから「会社を困らせてやる」というジョーカー的な事件も続出するだろう。(ブラックアジア:ジョーカー。這い上がれない人間が最後に辿り着くのは善悪を超越した暴力世界

働く側は「経済格差と貧困が生み出す社会の荒廃を見て、経営者は給与体系を見直して給料は上がっていくかもしれない」と思うかもしれない。しかし、企業は利益追求集団であり、経営者もかつてのような「社会の公器」という意識はない。

労働環境がもっと悪くなっていくのは確実である。

ジョブ型雇用で食い詰めた人々が激怒してテロを引き起こすような環境になっていくが、グローバル化も多文化共生も止まらないので、社会の荒廃は行きつくところまでいってしまうだろう。

今でも途上国では月給3万円で今の日本人と同じ仕事をこなす人が大勢いる。

グローバル化で、企業はいつでも途上国に工場を移すことができる。つまり、日本人が3万円で働きたくないと言うのならば、企業は日本を捨てるという選択が可能なのである。

日本人は「賃金を上げろ、待遇を良くしろ」と抗議デモをすることができる。しかし、グローバル化と多文化共生の社会の中では、そうやって企業に要求を突きつければ突きつけるほど、「じゃ、安く働いてくれる外国に工場を作るか。日本に入ってきている外国人を安く雇うか」という話になっていくのである。

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日本人が貧困化すると、私たちは知っていた

現在、ほとんどすべての国は、グローバル経済に組み入れられており、競争もグローバルで起きている。企業間で似たような製品を出して競争している場合、消費者が真っ先に着目するのは価格なので、グローバル経済では常に価格競争が起きる。

価格競争から逃れるためには、凄まじく強力なブランド力が必要だが、そうしたブランド力を持てる企業というのはそれほどない。

ほとんどの企業のかなりの製品は価格引き下げ圧力にさらされており、この価格競争に打ち勝つには、徹底的なコスト削減が重要になる。そして、企業が抱えるコストの中で、最も大きなものは人件費である。

そうすると、自ずと企業は人件費の削減をすることになる。社員をリストラするのも、非正規労働者を増やすのも、労働環境をブラック化させて社員を死ぬまでこき使うのも、これからジョブ型雇用に転換するのも、すべてコスト削減のためである。

だから、特別なスキル(職業的な技能)を何も持たない人は注意して生きなければ恐ろしいことになってしまう。

今の社会の動きは早いので、外国人労働者と、非正規雇用と、ジョブ型雇用が当たり前になったら、すぐに「年収300万円の時代は良かった、今では年収100万円台が普通になった」と言われる時代がやって来ていると考えた方がいい。

特別な能力を持たない雇用者は、給料は上がらない。上がらないどころか、もっと下がる。「給料12万円、手取り10万円、ボーナスなし」みたいな、社会のどん底《ボトム》を構成する人たちが大半となるような、そんな社会がやってくる。

今の労働環境は、ますます「雇用者」にとって危険なものになっていこうとしているのだ。「役に立つ人材を必要な時だけ雇う」のがこれからの時代だ。だとしたら、生き残るために、何としてでも特別(スペシャル)なスキルを持ったスペシャリストになるしかない。

あなたは、大丈夫だろうか?

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『亡国トラップ─多文化共生─ 隠れ移民政策が引き起こす地獄の未来(鈴木 傾城)』

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