現実は「銃が蔓延したらもっと銃が必要となる」悪夢の世界

現実は「銃が蔓延したらもっと銃が必要となる」悪夢の世界
2018年2月14日。米フロリダ州の高校でニコラス・クルーズという19歳の銃マニアの退学者がライフル銃を乱射して17人を死亡させ、多数の怪我人を出す事件が起きている。

今回の事件で使われたのはAR15型ライフル銃だが、このライフル銃は軍隊仕様のものである。これを19歳の、性格に問題ある容疑者が「合法的」に手に入れていた。

「AR15型ライフル銃は強力な殺傷能力があるが、アメリカでは5万円から10万円で合法的に手に入れることが可能だ」

テレビのインタビューを受けたフロリダの住民はそのように語っており、改めてアメリカの銃の入手の容易さがクローズアップされている。

精神異常や犯罪歴がない限り、アメリカでは誰でも合法的に銃を手に入れる権利がある。

そして、銃は蔓延する。アメリカではしばしば銃乱射事件が起きるのだが、その理由として銃の蔓延を止めることができないからである。

アメリカでは2017年10月1日にスティーブン・パドックという男がラスベガスでフェスティバルに参加している2万2000人に向けて銃を乱射、死者58名、負傷者515名の史上最悪の銃乱射事件が起きたばかりである。(ブラックアジア:ラスベガスの史上最悪の銃乱射事件。しかし、次も必ずある

それでもアメリカは銃を手放さない。銃はアメリカ人にとっては生きていく上で必要不可欠な存在と化している。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。

アメリカ人の銃所持の感情にも、表があれば裏がある

アメリカは安全も自由も「ただではない」という考え方が徹底している。

それは誰かが与えてくれるものではない。「自分で勝ち取り、守らなければならないもの」なのである。(ブラックアジア:「自由はただではない」という言葉の裏には何があるのか?

アメリカ人は現実主義だ。

「人類みな兄弟」だとか「みんな仲良し」みたいな幼稚園で教育されるような世界観は持っていない。世の中には良い人間も多いが、当然のことながら悪い人間がいるという「現実」をきちんと理解している。

言うまでもないが、悪い人間は手ぶらでやってくるのではない。彼らは銃を持っている。

だから「自分の身は自分で守る」ために「良き市民」もまた銃が必要であると考えている。

アメリカ人が銃規制に反対しているのは、「政府や警察や他の誰かが自分を守ってくれるのではなく、自分自身が自分を守らなければならない」という自立心と独立心と自助精神からきているのである。

しかし、世の中には表があれば裏があり、光があれば影もある。「自分の身は自分で守る」という崇高な精神が銃所持の正当化の根拠であるというのは、表の部分であり、光の部分であり、物事の一面である。

アメリカの銃所持に対する感情が複雑なのは、「裏」と「影」もあるからだ。

現在のアメリカ人は、無人の大地を切り拓いたのではなく、歴史も伝統も文化も持っていたネイティブ・アメリカンを銃で殺戮して手に入れた土地であったのは誰でも知っている。

アメリカ人は「悪い人間と戦うために銃が必要だった」と言うのだが、歴史を見ると「実は自分たちが銃を持った悪い人間だった」という見方もできるのだ。

銃によって築き上げられた国家は、銃の呪縛から逃れられない。ここが理解できないと、銃にこだわるアメリカ人の考え方が永遠に理解できない。

アメリカ人は今、さらなる過酷な現実に直面した

オバマ前大統領はずっと銃規制を訴えてきた大統領だった。一方で、全米ライフル協会のラピエール副会長は「銃を持った悪いヤツらを止めるには、よい人間が銃を持つしかないのです」と逆に銃所持の正当性を主張した。

そして、どうなったのか。アメリカ人は乱射事件が起きるたびに逆に銃を買い込んだ。

オバマ前大統領は「理想」を語る大統領だったが、理想を語って悪人が銃を捨ててくれるわけがない。

「良き市民」が銃を持つのを止めると、悪い人間だけが銃を持つことになり、よけいに自分が危なくなるとアメリカ人は考えている。だから、アメリカ人は理想よりも目の前の現実を取った。

つまり、「銃を持った悪いヤツら」を止めるために、自ら銃を取ることを選んだ。

現実を見渡せば、悪人が嬉々として銃を誇示している。犯罪もその多くが銃絡みだ。銃が蔓延したら、銃を使った犯罪が増えるのは当然のことだ。銃は「効果がある」からである。

人を殺すのは素手では並大抵のことではできないが、銃を持っていれば相手がどんなに巨漢だろうが関係ない。誰でも簡単に殺せる。現実がそうなっているのであれば、現実に対応するしか方法がない。

しかしアメリカ人は今、さらなる過酷な現実に直面しており、自分たちの姿勢に動揺するようになりつつある。

度重なる銃乱射事件で子供たちが次々と傷つく中で、いよいよ「本当に今のままで正しいのか?」という自省の声が漏れ始め、その声が強くなりつつある。

この声は一過性のものなのか、それとも広がっていくものなのかはまだ誰にも分からない。アメリカ人自身も心情が揺れ動いている。

今回の事件を受けてドナルド・トランプ大統領は哀悼の意を示したが、銃規制の問題には踏み込まなかった。なぜか。共和党、およびドナルド・トランプ大統領の支持基盤は全米ライフル協会だからである。

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銃が蔓延したら、より銃が必要となる悪夢の世界

ところで、銃が蔓延している国として、アメリカはしばしばクローズアップされるのだが、「銃の蔓延」という意味で世界を見回せば、アメリカだけが問題ではないことが分かる。

中東のシリア・イラク、あるいは政府が脆弱なアフガニスタンでは国土が内戦状態であり、誰もが銃を持ち歩いている。

アフリカでも、中央アフリカ、コンゴ、ソマリア、スーダンは銃が満ち溢れている。こうした地域では、銃による大量殺戮が日常茶飯事に起きている。

また、悲惨な状態になっているのは中南米でも同じだ。

南米の治安は戦争状態になっている国をのぞけば、世界最悪である。現在、世界で最も治安の悪い都市はホンジュラスのサンペドロスラであると言われている。

しかし、ホンジュラスの治安は「全土」で崩壊しており、首都テグシガルパもまた世界最悪の治安である。ホンジュラスは、行ってはいけない国なのである。(ブラックアジア:行ったら殺される。手の付けられない無法地帯、ホンジュラス

ホンジュラスだけではない。メキシコ、ニカラグア、グアテマラ、エルサルバドル、パナマ、コロンビア、ブラジル……と中南米の国はそのほぼすべてが治安崩壊国家である。

これらの国々の共通点はアメリカと同じだ。

銃が蔓延し、「銃を持った悪いヤツらを止めるには、いい人間が銃を持つしかない」という悪夢の論理が社会全体を支配していることだ。

中南米では犯罪者のほぼすべてが銃を持ち、犯罪には必ず銃を使用する。

強盗でも、最初に撃って相手の反撃を奪ってから金を盗って逃げる。ちょっとした万引きでさえも銃を持っていき、バレたら銃を乱射して逃げる。

そして、何か気に入らないことがあると、すぐに銃を持ち出して相手を撃ち殺す。だから、南米では毎日のように道ばたで射殺された人の死体が転がっているような社会になっている。

銃が蔓延したらどうなるのか。より銃が必要となる。

「銃を持った悪いヤツらを止めるには、いい人間が銃を持つしかないのです」と言うのは、日本人は理解できないかもしれない。しかし、世界はこの論理で動いている。(written by 鈴木傾城)

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