銀行破綻で動揺した株式市場。世界は予測した通りに動かないしこれからも不透明

銀行破綻で動揺した株式市場。世界は予測した通りに動かないしこれからも不透明

3月に入って、突如としてアメリカの地方銀行が経営破綻して銀行セクターが危機に陥るなど誰も事前に予測していなかった。ということは、これから何が起こるのかも誰も予測できないということになる。世界は予測した通りに動かない。突発的な想定外も起こる。それが世の中だ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

「これからどうなるのか?」に関しては見方が割れている

アメリカでは2023年3月に入ってから突如としてシリコンバレーバンク(SVB)シルバーゲート・キャピタル、シグネチャーバンクが次々と破綻していき、これを受けて多くの銀行の株式が大暴落するという憂き目を見た。

2022年から急ピッチで行われているFRB(連邦準備銀行)の利上げによって企業の経営環境が悪化していき、特に利益を出していないスタートアップ企業の資金調達が厳しくなった。

シリコンバレーバンクの破綻は、こうしたスタートアップ企業に対して野放図に融資していたことから起こった問題だった。

この地方銀行の破綻劇はSNSによって「ここの銀行は危ない、あそこの銀行も危ない」と不安と恐怖を煽る投稿が一瞬に広がって顧客による預金の引き出しが急増し、それが危機を増幅するという一面もあり、今も激震が続いている。

この突如として起こった銀行業界に対するダメージは国外にも広がっていき、経営陣の内紛やマネーロンダリングでの有罪判決などで経営不振にあえいでいたクレディ・スイスもついに陥落し、ライバルのUBSに買収される見込みとなった。

こうした大混乱が引き起こされるまで、アメリカは「今回はソフトランディングに成功する」「景気後退《リセッション》は来ない」と言う声もあったのだが、楽観論はこの1週間で一気に吹き飛んでしまった。そして、金融関係者では「これからどうなるのか?」に関しては見方が割れている。

「悪いニュースは良いニュース」ということで「これから株式市場は上昇する」と力強く宣言するアナリストもいれば、「この不安定な状況によって不確実性が増している」ので「ここから株式市場は数十%下落する可能性もある」と言うアナリストもいる。

【金融・経済・投資】鈴木傾城が発行する「ダークネス・メルマガ編」はこちら(初月無料)

だから、誰も正確なことなど分かるはずがない

金融市場は莫大なデータが蓄積され、多くのアナリストは同じデータを詳細に分析する。そして、クライアントの「未来を知りたい」という欲望に答えて、さまざまな予測をする。

ところが同じデータを見ても、どの部分を重要視するのかがアナリストによって違っているので、結論が180度違うことが当たり前にある。

今回もそうなのだ。

2022年はインフレと金利に焦点が当たった相場環境であった。そのために、「金利が上がれば株式は下がる、金利が下がれば株式が上がる」という教科書通りの動きが確認された年でもあった。

しかし、それでも「どれだけの幅で上げていくのか、打ち止めはいつになるのか、利下げはいつになるのか」は、市場の動向を見ながら臨機応変に決められるので、あらかじめ何かが決定されているわけではない。

「もっと利上げが為される」のか「もう利上げは打ち止めなのか」もまた中央銀行の中でも議論の末に決定される。金利が上がるのか下がるのかも予測であり、さらに金利の決定で動く株式市場の動きも予測となる。

金利の予測と相場の予測の両方が当たらなければならないわけで、それは「予測の上に予測を積み上げる作業」なのだ。だから、誰も正確なことなど分かるはずがない。予測するのは勝手だが当たらない。

端的に言うと、不確実な世界で正確な予測は不可能に近い。専門家が偉そうな口をきくほど当たっていないのは、彼らが無能なのではなく、もともと不確実な要素で動く相場など誰も正確に予測できるわけがないからである。

【ここでしか読めない!】『鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』のバックナンバーの購入はこちらから。

「確実ではないということだけが確実」という真理

3月に入って、突如としてアメリカの地方銀行が経営破綻して銀行セクターが危機に陥るなど誰も事前に予測していなかった。ということは、これから何が起こるのかも誰も予測できないということになる。

世界は予測した通りに動くような性質のものではない。あまりにも予測に及ぼす変数が多すぎて、予測しても当たらない。考慮しなければならない要素が数百、数千もある。突発的な想定外も起こる。これでは予測が当たるはずがない。

突発事項はいくらでも起きるし、人々の心理も関心もころころ変わる。仮に金融市場の動向を予測して当たったとしても、「外れる可能性もあった」はずなのだ。当たったかもしれないが、外れた可能性もあったのだから、丁か半かのバクチと同じだ。

丁か半かと言えば、答えは五分五分だから、当たりやすいと思うかもしれない。そのため、コインを投げて最初に表が出たら、次に裏が出るほうに賭ける人が多い。

しかし、確率は無限に繰り返した結果から現象を抽出したものだから、表が出て次に裏が出るとは「約束」されていない。丁か半かのバクチですらも、当てるのは容易ではない。

そうであれば、金融市場のさまざまな統計データを見て過去のアノマリーを未来に当てはめたり、チャートの形を見て「上がる、下がる」と騒ぐことに安全域はどこにもないことに気づくはずだ。

「確実ではないということだけが確実」という真理をきちんと理解できない人は、市場に踊らされ、流言に惑わされ、将来を断言する「専門家」に騙される危険性がある。あるいは、荒唐無稽な陰謀論のカモにされる。

専門家は「名門企業の所属や出身」であったり「著名」であったり「大きな資金力を持っている」ので信頼できそうな感じがするのだが、未来は肩書きを持った人間の予測で動くわけではない。話半分で聞いておく必要がある。

ダークネスの電子書籍版!『邪悪な世界の落とし穴: 無防備に生きていると社会が仕掛けたワナに落ちる=鈴木傾城』

バブルが発生している時や、大暴落が起きている時

こういった専門家が大活躍するのは、もちろんバブルが発生している時や、大暴落が起きている時である。

たとえばハイテクセクターや仮想通貨などの市場が暴騰すると、多くの投資家が「ここに投資すれば儲かるのか?」と浮き足立つ。そこに専門家がさっそうと現れて「もっと上がる、バスに乗り遅れるな」とか言って騒ぎ立て、人々の注目を集めて自分の金儲けに使う。

逆に株式市場が大暴落すると多くの投資家が動揺し、右往左往する。そこでまた、うさんくさい専門家が急に出てきて「アメリカが崩壊する」とか「ドルが紙切れになる」とか「資本主義は終わる」とか、適当なことを陰謀論などに絡めて言い出すのである。

そして、自分だけはあかたも将来が見えているような口調で「将来はこうなる」と断言して、「俺に金を払えば救われる」「俺のセミナーを聞け」とか言い出す。経済的な混乱の時代に入ると、特にこの手の人間が大活躍する。

株式市場が大動乱する時代になれば、何かを断言する人間が「世の中が見えている」ような気になるからだ。

しかし、よくよく考えて見れば分かるが、相場というのはロケットのように騰がる時もあれば、壊れたエレベータのように急降下する時もある。相場がバブルになるとか大暴落すると予測や予言しなくても、それはいつか起きるものなのである。

「確実ではないということだけが確実」というのが分かっていれば、経済的な大混乱がきても流言とデマに引っかかることはない。予測は確実ではない。だから予測に頼らないでもやっていける方法を見つけるのが正しい。

これから市場は下がることもあれば、上がることもあれば、何も起こらずに推移することもある。あまり予測を過信せず、負けたら死ぬようなレバレッジもかけず、冷静に着実に動向を見て対処するのが生き残るコツでもある。

『邪悪な世界のもがき方』
『邪悪な世界のもがき方 格差と搾取の世界を株式投資で生き残る(鈴木傾城)』

鈴木傾城のDarknessメルマガ編

CTA-IMAGE 有料メルマガ「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」では、投資・経済・金融の話をより深く追求して書いています。弱肉強食の資本主義の中で、自分で自分を助けるための手法を考えていきたい方、鈴木傾城の文章を継続的に触れたい方は、どうぞご登録ください。

株式市場カテゴリの最新記事