日本政府もマスコミも新紙幣で騒ぐのだろうが、それは時代遅れの催し物に感じる

日本政府もマスコミも新紙幣で騒ぐのだろうが、それは時代遅れの催し物に感じる

この新紙幣への切り替えは大きなイベントではあるが、誤解してはいけないのは今後は「紙幣・硬貨」は本流になり得ないということだ。本流は「デジタル決済」のほうである。このデジタル決済が主流となって定着していくのであれば、どこが儲かるのだろうか。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

2024年7月3日に紙幣のデザインが変わることになる

今年、2024年7月3日に紙幣のデザインが変わる。一万円札は近代日本経済の父である渋沢栄一、五千円札は日本で最初の女子留学生としてアメリカで学んだ津田梅子、千円札は破傷風の治療法を開発した細菌学者の北里柴三郎の肖像である。

紙幣のデザインが変わる理由は、いくつもの理由が挙げられている。真っ先に言われているのが「偽造防止技術の向上」である。新紙幣には、最先端のホログラム技術が導入される予定だ。

また、耐久性も向上し、グローバル化の観点からも数字が見やすくわかりやすいデザインとなり、ユニバーサルデザインとして、透かし部分に点字が採用されることになっている。

語られていない裏の理由としては、「莫大なタンス預金のあぶり出し」もあるのではないかと邪推もされている。

タンス預金の額は30兆円から80兆円の規模で存在するようだが、これらの「表に出ない現金」は資金洗浄や租税回避の温床になり得るものであり、政府はこれをあぶり出して租税したい。

実際には、新紙幣になったからと言ってタンス預金が表側に出てくるのかどうかはわからない。しかし、「新紙幣に変えないといつまでも旧紙幣だと怪しまれる」という感情で、一部のタンス預金が表に出てくる可能性は高い。

旧紙幣と新紙幣の入れ替えをきっかけに、政府や国税庁や税務署は隠れていた現金の存在を確認することになるのだろう。タンス預金として退蔵されている現金がどれくらい表側に出てくるのか、関係当局は固唾を飲んで見守っているはずだ。

いずれにせよ、2024年7月3日に新紙幣が登場してから、表の社会も裏の社会もいろいろ奇妙な動きも起こるだろう。

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若年層の間ではもはや現金決済をしている人の方が珍しい

ところで、この新紙幣への切り替えは大きなイベントではあるが、誤解してはいけないのは今後は「紙幣・硬貨」は本流になり得ないということだ。本流は「デジタル決済」のほうである。

高齢化が定着してしまっている日本では、まだまだデジタル決済に飛び込めない人や環境が続いている。しかし今後は、デジタル決済がもっと当たり前になって、紙幣や硬貨はほとんど使われなくなっていく。

デジタルはモノを駆逐している。効率性と合理化を求める社会がデジタル決済への移行を人々に「強制」している。とすれば、2024年7月に新紙幣が出ても、それを使うよりもデジタルを使う人のほうが多いのは当然だ。

すでに若年層はインターネットでもリアルでも、当たり前のようにクレジットカードやデビットカードやQRコードなどを使ったデジタル決済をしている。すでに「財布は忘れてもスマートフォンさえ忘れなければ買い物から食事から電車賃まですべてまかなえる」社会になっているのだ。

実際、私自身も紙幣や硬貨はほとんど使わなくなった。100円程度のモノを買うときでもスマートフォンで決済している。

いったん、デジタル決済の利便性に慣れると、紙幣や小銭を買い物のたびに数えて財布から取り出したり、おつりを受け取ったりするのがいかに非効率化がわかるようになってくる。

高齢層は今もなおスマートフォンをうまく使えないので、まだスーパーやコンビニで財布から「1円、2円」と数えながら紙幣と硬貨で払ってもたもたしているが、若年層の間ではもはや現金決済をしている人の方が珍しい。

そういう意味で、今さら紙幣に力を入れる政府の姿勢は時代遅れな感が否めない。

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令和の時代に発行される新しい紙幣が最後の紙幣?

時代はデジタル決済が主流なのだ。もう抗っても仕方がない。そして、このデジタル決済も、クレジットカード決済、デビットカード決済、電子マネー、QRコード決済、キャリア決済、コンビニ決済……と、多種多様で興味深い。

今はQRコード決済を好む層もいるが、非効率なので最近は非接触決済(タッチ決済)が主流になっており、これが決済手段を独占していこうとしている。どう考えても非接触決済の方が安全であり迅速だからである。

非接触決済とは、スマートフォンなどを簡単にタッチしただけで決済ができるスタイルのものである。アップル・ウォッチで非接触決済をしている人は、決済のためにスマートフォンを出す必要すらもない。

決済のたびにスマートフォンにQRコードを表示したり読み込んだりするような決済と、タッチした瞬間にやり取りが終わる決済のどちらが合理的なのかと考えると、圧倒的に非接触決済の方が合理的である。

決済の利便性とセキュリティの観点からも非接触決済のほうが優れている。暗証番号の入力やサインが必要ない。日本国内のクレジットカードの約9割が非接触決済に対応している。また、スマートフォンの非接触決済に対応するアプリも数多くリリースされている。

デジタル決済がどのようなスタイルで定着するのかは、まだまだこれからの話なのだが、ひとつ言えるのは、すでに令和元年から時代は「紙幣・硬貨」から「デジタル決済」へと移り変わっているので、新しい紙幣はこれまでより使われることは「ない」ということだ。

場合によっては、令和の時代に発行される新しい紙幣が「最後の紙幣」として記録されたとしても私は驚かない。「最後の紙幣」は価値があるのか。象徴としての紙幣、骨董品としての紙幣としては価値はあるかもしれない。

しかし、「時代の流れ」から見ると新しい紙幣は明らかに時代遅れであり、日本政府はこんなものよりもデジタル決済を普及させるほうに神経を集中させたほうがいいのではないか。

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新紙幣よりもVISAやMastercardのほうがまばゆい

ところで、このデジタル決済なのだが、こうした決済が主流となって定着していくのであれば、どこが儲かるのだろうか。恐らく、グローバルでデジタル決済に大きな影響力を与えて勝者になるのは、VISAやMastercardだろう。

PayPalのようなフィンテック(FinanceとTechnologyを組み合わせた造語)も広がって行くのだろうが、VISAやMastercardの堅牢性や信頼性はすでに全世界で確立されており広く使われている。

今後、AmazonやAppleなどのビッグテックもこの分野に進出してくるかもしれないが、それでもVISAやMastercardの牙城を崩すには至らないはずだ。今後も、VISAやMastercardの決済取扱高は増加し、収益も拡大する可能性は高い。

VISAやMastercardにもライバルはいる。AmericanEXPRESSやDinersClubやDiscoverCord、JCB、そして中国銀聯(ユニオンペイ)などがそうだ。中国では中国銀聯、日本ではJCBがよく使われているが、やはり主流はVISAやMastercardである。

今後もデジタル決済の普及や新たな決済手段の登場などで、市場環境は大きく変化していく。そのため、VISAやMastercardは、競合他社に先駆けて新たな決済サービスを開発したり、既存のサービスを強化したりする必要がある。

VISAやMastercardはその力がある。今後も常にデジタル決済の中心にあり続ける企業であるはずで、それを考えるとVISAやMastercardは長期投資に値する企業でもある。

日本政府は新紙幣を出すが、私はそんなものよりもVISAやMastercardのほうがまばゆく見える。投資金融情報専門紙のBarron’sも、2024年に相場を牽引する可能性のある企業として「VISA」を挙げているほどだ。

日本政府もマスコミも新紙幣で騒ぐのだろうが、端から見ていると時代遅れというか時代錯誤と言うか、私には「時代遅れの催し物」に感じて仕方がない。新紙幣の登場を見据えつつ、VISAやMastercardの株式に賭けるのが資本主義的な行動だ。

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