パランティア。アメリカと敵対する国家とはビジネスをしない筋金入りの愛国企業

パランティア。アメリカと敵対する国家とはビジネスをしない筋金入りの愛国企業

AIは軍事・国防もまた変えていこうとしている。軍事面では相手の動向や軍の配備や戦略の選択にも利用されていく。この分野で最先端を走っている企業がある。それがパランティア・テクノロジーズ(Palantir Technologies Inc.)である。この企業は注目に値する。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

AIは軍事・国防もまた変えていこうとしている

人工知能(AI)の分野が現代社会の大きなパラダイムシフトになるのは間違いない。今後、ありとあらゆる業界がAIを取り入れることによって生産性を大きく向上させることになる。

たとえば、医療業界であれば、AIが医療画像から病変を自動検出し、医師の診断を支援することや、膨大なデータを分析することで、新薬の開発期間短縮に貢献することが期待されている。

製造業であれば、AIが製品の欠陥を自動検出し、品質向上に貢献する。あるいはAIがロボットを制御し、効率的な生産を実現する。また、AIは機械の故障を予測し、予知保全や事故の防止を行うことになる。

金融業界では、AIは顧客の信用度を自動判定し、迅速な融資審査を実現する。また、不正取引を自動検知し、金融機関の損失を事前に防ぐ仕事もする。さらに、AIは顧客の資産状況や投資目標に基づいて、最適な投資アドバイスを提供していくだろう。

そして、あまり注目されていないが、AIは軍事・国防もまた変えていこうとしている。

軍事面では相手の動向や軍の配備や戦略の選択にも利用されていく。この分野で最先端を走っている企業がある。それがパランティア・テクノロジーズ(Palantir Technologies Inc.)である。

この企業は2003年にペイパル創業者ピーター・ティール氏らによって設立されたのだが、アメリカの超愛国右派系企業で異彩を放っている。普通、ハイテク企業の多くはリベラルな思想を持っているのだが、この企業は違うのだ。

自分たちの技術を、アメリカとその同盟国だけにしか使わせないと明言している。それがゆえにアメリカ国内でも賛否両論であり、熱烈に支持する投資家がいる一方で、蛇蝎のごとく嫌っている投資家もいる。

私も注目している企業のひとつでもある。

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AIを「強烈な愛国主義」のために使用する企業

パランティアは、具体的にどのようなことをしているのか。パランティアは「データ分析で世界を変える」というビジョンを掲げているのを見てもわかる通り、大量のデータを統合し、分析し、視覚化し、どのような行動を取るのがもっとも優れた選択肢なのかをAIがいつか提示する。

政府機関向けデータ分析プラットフォームとして「ゴッサム」、企業向けデータ分析プラットフォームとして「ファウンドリー」、医療機関向けデータ分析プラットフォームとして「パランティア・アポロ」、さらに人工知能を最大活用するためのプラットフォームとして「パランティアAIP」がある。

これらのプラットフォームは軍事でも使用されることから、強固なセキュリティを保っており、これによってアメリカ政府・国防総省のみならず、同盟国であるイギリス政府、ドイツ政府、さらにはイスラエル国防軍に採用されている。

米国政府はこれをテロ対策、金融犯罪の捜査、諜報活動に使用している。

エネルギー企業は、エクソンモービル、BP、シェルがこのパランティアのソフトウェアで戦略を包括的に管理しており、金融機関ではJPモルガン・チェース、ゴールドマン・サックス、シティグループなどが採用した。銀行系は、市場リスク分析や、不正取引の検知などに使用している。

いずれにしても、人間が扱えない莫大なデータから意味のある真実を見つけ出して、それを瞬時に提示するのがパランティアのソフトウェアの特徴でもある。

奇妙なことにCEOのアレックス・カープはヒッピーの親に育てられた「極左」側の人間だったが、その反動なのかパランティアはどのアメリカ企業よりも右側に寄ったビジネスを展開することを約束している。

アメリカの敵となる国、中国やロシアなどとは絶対にビジネスをしない。パランティアはAIを「強烈な愛国主義」のために使用しようとしているのだった。その基盤になるのが「ゴッサム」である。

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 AI知能に対する需要がパランティアの追い風に

パランティアは2024年2月に2023年第4半期決算を発表しているのだが、売上高は前年同期の5億860万ドルから6億840万ドルに増加しており、約17%の増加率となっていた。そして、純利益は、前年同期の3090万ドルから202%も増加し、9340万ドルとなっている。

これらのデータ分析にはAIがますます重要になってくるのだが、このAIの重要性が認識されるようになってパランティアのビジネスにも強い注目が集まっている。

CEOアレックス・カープは、「同社の事業拡大と成長は、かつてないほど大きくなっており、とくに米国における大規模な言語モデルの需要は絶え間なく続いている」と株主に説明した。

軍事部門だけでなく、商業部門も売上が伸びており、AI知能に対する需要がパランティアの追い風になっているのがわかる。これによって、株価も一気に25%の急騰を見せている。

パランティアは、さらに人工知能プラットフォームの展開を進めているので、今後も需要の増加にビジネスが支えられる可能性が高い。民間部門の売上が伸びている。あまりの需要の高まりに「どう対応したらいいのかわからない」とCEOが悲鳴をあげるほどになっている。

軍事部門については、もし今年11月にトランプ前大統領が返り咲くようなことになるとパランティアにとっては有利かもしれない。トランプは「アメリカ第一主義」であり、パランティアと相性が良い。

2016年は設立者のピーター・ティールが公然とトランプ支持にまわったのも記憶に新しい。トランプが当選すると、これまでの経緯から見ると国防費に多くの予算を費やす可能性が高いので、パランティアがより儲かっていく可能性が高い。

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異質かつ異形な企業であるパランティア

今後、パランティアが成長を維持できるかどうかは、やはりLLM(大規模言語モデル)を最大活用するプラットフォーム「パランティアAIP」がどれくらいの高性能で、どれくらい複雑な処理で的確なフィードバックがなされるかにかかっている。

投資家たちはパランティアがこれまでの経験で、かなりうまくシステムを構築・運用するのではないかと賭けている。

パランティアはまだS&P500にも採用されていない企業であり、愛国主義の企業姿勢や企業哲学によって、リベラルな投資家たちからは激しく嫌われている面もあって、成長するにしても一筋縄ではいかない企業ではあるが注目に値する。

リベラル一辺倒のアメリカのハイテク企業の中でも、アメリカがこのような企業を生み出すことができることは、ある種の驚きでもある。グローバル企業は利益追求のために敵対国家であろうが何だろうが商売のためには関係なく製品を売る。

たとえば、中国はもはや完全にアメリカの敵国扱いなのだが、それでもアップルやナイキやスターバックスやマクドナルドのような企業は中国との取引をやめようとしないし、中国市場により食い込みたいと願っている。

利益のためには敵・味方関係なく儲けるのがグローバル企業の特徴である。

しかし、パランティアはまったく異質だ。アメリカの敵対国家とは絶対に仕事をしないという哲学を創業者であるピーター・ティールもアレックス・カープも隠そうとしない。ビジネスのために政治姿勢を公言しないことが多い経営者の中では異形であるともいえる。

こうした強烈な個性を持った経営者の運営する異質かつ異形な企業が、今度どこまで大きくなるのか、あるいは挫折するのか、興味深いものがある。

投資するにしても、かなり紆余曲折と毀誉褒貶とリベラルの妨害によって変動(ボラティリティ)が高くなるのは想像できる。

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