メディカルダイエット。全人類の行動パターンを変える「巨大市場」が生まれる

メディカルダイエット。全人類の行動パターンを変える「巨大市場」が生まれる

端的に言えば、現代社会は約22億人の人間が肥満である。この肥満の大きな要因としてジャンクフードの存在があるのだが、人々はジャンクフードから逃れられない。だから肥満が増えていくのだが、いま肥満を巡って大きなゲームチェンジが起きている。肥満は薬で「治る」ようになったのだ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

「単価の安い現代人のエサ」がジャンクフード

過体重(BMI25以上)の人は、子供・成人含めて全世界で約22億人。BMI30以上の超肥満の人は、小児で1億770万人、成人で6億370万人。これは、世界の疾病負担研究(GBD)が195カ国の1980年から2015年のデータを研究して得た結果だ。

端的に言えば、現代社会は約22億人の人間が肥満である。

これは「食品」もまた資本主義の商品のひとつであることに端を発している。食品企業もまた資本主義の中では利益を追求しなければならず、株主にもそれを求められている。

そのため、食品企業にとっては人々が朝から晩まで食べて食べて食べまくってどんどんカネを使ってくれることが望ましい。ブロイラーのように食べてもらって、カネを支払ってもらう。

身体が風船のように膨れあがるまで食べてもらうことが食品企業にとっては重要なのだ。だから、食品企業は自らの利益のためにそこに邁進した。大量に生産し、大量に消費してもらう方向に突っ走っていったのだ。

その過程で生まれてきたのが「ジャンクフード」である。

ジャンクフードは、糖分や脂質をありったけ加えて交感神経を刺激して、依存性を高めている大量生産食品である。ほとんどの場合、それは柔らかく、固定物であっても流し込めるようにして胃に送り込める。そして、依存させる。

こうしたジャンクフードのことを「単価の安い現代人のエサ」と呼んでいる人もいるが、工業製品としての食品なので「エサ」だと言われてもしかたがないような存在なのかもしれない。

大量生産できるので、単価も安くなる。それを大量の広告で流して手に取らせる。テレビやゲームやインターネットの前に座ったユーザーを洗脳して、どんどん食べさせるのだ。

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そうすることによって事業が成り立っている

ジャンクフードという単価の安いエサのようなものを与えて、人々に歯止めなく食べさせる。

食品企業は別に人々を不健康にしようと思ってやっているわけではなく、そうすることによって事業が成り立っているので、脇目を振らずそこに邁進しているだけであるとも言える。

人々を極限まで食べてもらうことで食品会社は成長する。ジャンクフードの世界を支配しているのは、巨大な多国籍企業である。これらの企業は株式を発行しているので、ひたすら成長することを株主から求められている。

その結果、現代のスーパーにはジャンクフードが並び、これらが安いので低所得層がどんどんジャンクフードにまみれて肥満になっていく仕組みになった。しかも、話はそれで終わらなかった。

低所得層だけでなく、このジャンクフードは強烈な味と広告によって依存性を極限まで高めているので、低所得層だけでなく富裕層もまた取り憑かれるようになっているのだ。

要するに、いまや全人類がジャンクフードを食べて肥満のリスクにさらされているのである。資本主義社会において、「全人類」が食品会社のブロイラーのようになってしまったとも言える。

人々は無意識に気が狂うほど食べさせられ、そして人間ではない何か別の生物のように太らされていく。

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資本主義は人々をラットレースに追い込んでいく

興味深いことに資本主義はこれで止まらない。「食品の資本主義化」によって大量の肥満者が生まれると、今度は「痩せさせるビジネス」が大流行していくことになる。

最近のフィットネスブームやオーガニックブームは、まさにジャンクフードがあるから成り立っている業種であるとも言える。

食べるのは快楽だが、痩せるのは苦痛なので、ほとんどの人は運動したところで痩せることはない。痩せることがないので、人々は延々とだらだらフィットネスで無駄な努力をする。一時的に痩せても、フィットネスを辞めたらすぐに元に戻る。

気を抜いたら、すぐにジャンクフードの洗脳が効き始めて、避けていたはずのジャンクフードに戻って、体重もリバウンドしていく。そういうのを繰り返す。その結果、フィットネスなどを展開する企業はどんどん巨大企業になっていく。

オーガニックも、ヴィーガンも、実を言うとジャンクフードが人類を支配しているから成り立っている業種である。健康食品も、サプリメントも、やはり誰もがジャンクフードから逃れられないから「気休め」で消費されている。

そんなものを取っても、ジャンクフードがやめられないのだから意味がないのだが、意味がないものを意味があるように見せるのがビジネスなので、健康食品も、サプリメントもどんどん成長企業になる。

そうやって資本主義は人々をラットレースに追い込んでいく。

ところが、2023年。いよいよゲームチェンジャーが生まれた。この新たな動きは全人類の行動パターンを変える「巨大市場」を生み出す可能性がある。それが「本当に効く痩せ薬」の登場である。

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全人類の行動パターンを変える「巨大市場」

2023年8月7日、アメリカの大手製薬会社のひとつ『イーライリリー』の株価が出来高を伴って一気に15%近くも爆上げした。4-6月期の第2四半期決算を発表したのだが、1株利益、売上高とも予想を上回ったことが好感されたのだった。

このイーライリリーの決算に莫大な寄与をしたのが肥満治療薬『マンジャロ(成分名、チルセパチド)』である。

これまで怪しい「痩せ薬」は世界中で発売されていたが、イーライリリーの開発した「マンジャロ」は後期臨床試験でも実証されたものであり、本当に痩せることができる画期的な製薬であったのだ。

イーライリリーと共に、デンマークの製薬企業であるノボ・ノルディスクもまた肥満治療薬の「ウゴービ」で株価が急騰して、時価総額で欧州トップの企業に駆け上がった。

イーライリリーやノボ・ノルディスクが「メディカルダイエット」という新たな分野と市場を生み出したのである。

この「メディカルダイエット」は肥満症の人たちにとっては、まさに望んでいたものであった。なにしろ、意志の力を必要としないで痩せることができる。しかも本気で効果がある。

最初に書いたが、全世界で肥満症の患者は約22億人もいるのだから、イーライリリーやノボ・ノルディスクはこれから「製薬会社最強の企業」になる可能性もある。何しろ、人類はジャンクフードの依存になって肥満がとめられないが、本当は痩せたくて痩せたくてしかたがないのだ。

だから、「ジャンクフードで太ってメディカルダイエットで痩せる」がこれからの主流になるはずだ。つまり、カネの流れが一直線になる。人々はジャンクフード企業にカネを落とし、メディカルダイエット企業にカネを落とす。

メディカルダイエットの市場は全人類の行動パターンを変える「巨大市場」だ。この新たな流れに私は注目している。

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