これからFRBがよほどうまく動かないと景気後退《リセッション》に見舞われ、株式市場の崩落すらもありえる事態となる。そして、それが手に負えなくなっていくと、今度は不況に入っていく。今回は「景気後退→不況」を避けられるという投資家もいるが、果たしてどうだろうか……。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
景気後退を避けられるかどうか世界は見守っている
景気は巡る。この「巡る」ことを景気サイクルと呼ぶのだが、どの時代でも常に景気サイクルのどこかにいて、私たちの社会を激動させている。サイクルは具体的に言うと、以下の4つのサイクルとなる。
好況→景気後退→不況→景気回復
資本主義の世界を支配しているのはアメリカなのだが、このアメリカではここ1年で政策金利がぐっと引き上がってきているが、これは何を意味しているのかというと、「経済活動が活発で強い」ということなのだ。
2020年にコロナ・ショックがきたときにFRB(連邦準備銀行)は一気に金融緩和をして国民にどんどん給付金を出したのだが、これによって市中にはカネがじゃぶじゃぶとうなってコロナ禍にもかかわらずアメリカは「好景気」となったのだ。
このジャブジャブの資金はリモートワークの根幹の技術を支えるためのハイテク企業に向かい、ここから「レバナス(NASDAQにレバレッジをかけた金融商品)」が一躍脚光を浴びた。
しかし、相場はあまりにも過熱し、2022年に入ってからはロシアがウクライナに攻め込んだことによるエネルギー危機も勃発して、急激なインフレが発生することになった。
これを見たFRBは今度は急激に金利を引き上げていき、1970年代を彷彿とさせるインフレを抑えにかかった。そして今、景気後退が来るか来ないかの瀬戸際になっている。FRB(連邦準備銀行)の手綱さばきが一歩間違うと景気後退に突入する。
今は景気後退を避けられるかどうか世界は固唾を飲んで見守っている段階だ。
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インフレがひどくなると金利は上がっていく
景気は巡るのだが、この景気に合わせて同じサイクルを持つのが金利である。金利は具体的に言うと、以下の4つのサイクルとなる。
高金利→金利低下→低金利→金利上昇
賃金の伸びは常にインフレに遅れてしまう。そのため、インフレがどんどん進んでいくとどうなるのかというと、貧困層から生活が苦しくなり、何も買えなくなってしまうのだ。
何しろ、賃金の上昇は微々たるものなのに、物価は申し合わせたように一気に上がっていくからだ。そのため、中央銀行はCPI(消費者物価指数)のような景気指数を見つめながら、インフレがひどくなりつつあると金利を上げていく。
資本主義社会は成長する社会なので社会は常にインフレ状態であることが知られている。成長しない国は経済が萎縮して成長している他の国に追い抜かれて貧困化していくので、経済が成長していくというのは大切なことである。
しかし、経済が過熱して物価がみるみる上がっていくのも良くない。どれくらいが「ほど良い」加減なのかと言うと、だいたい2%くらいであると言われている。そのため、インフレ率が2%を超えると、機能している中央銀行はかならず金利の引き上げをするようになる。
2022年はまさに、アメリカでそれが起こったのだった。そして、現在、アメリカの政策金利(FF金利誘導目標)は5.25%~5.5%と22年ぶりの高水準となっている。
ところで、インフレ率が2%を超える好況の中で金利を引き上げていくと、どうなるのか。十分な金利引き上げが為されると、景気のサイクルはかならず景気後退や不況に向かっていく。
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利上げが終わったのかどうかは微妙なところ
2022年4月から2023年8月までFRB(連邦準備銀行)は金利を上げ続けて、アメリカのCPI(消費者物価指数)はかなり下がってきた。3.2%とかなり下がってきた。ただし、目標の2%から見るとまだ少し高い。
そのために、利上げが終わったのかどうかは微妙なところである。FRBもデータを精査して、次の利上げを「据え置く」か「上げる」かを決めることになる。
そうしている間に、アメリカの景気は「金利が上がると景気は悪くなる」という教科書通りの動きを見せるようになってきている。
アメリカ人はそろそろコロナ禍でもらった一時給付金を使い果たしており、さらに2022年からはじまったインフレによって余剰貯蓄を失いつつある。インフレがまだ収まらないのであれば、痛みを伴う支出が増えていく。
そうなるとどうなるのかというと、消費は間違いなく「軟化する」のである。
消費が軟化するとは、要するに国民がモノを買わなくなることを意味しており、これは企業の業績を悪化させる元凶となる。利益率が悪化していき、設備投資も高金利で鈍ってしまう。そうなると、企業は人を雇うのも慎重になっていき、賃金も引き上げようとはしなくなる。
つまり、「景気は悪くなる」のだ。
現在、グローバル経済も良いとは言えない。ロシアは泥沼の戦争によって国費を莫大に消耗してしまっている。中国もゼロコロナ政策による失策、格差拡大、不動産分野の変調、人口の伸びの停止と高齢化などが複層的に重なって、いよいよ成長から停滞のフェーズに入っている。
これによってグローバル経済も「旺盛な需要」を失うわけで、景気の悪化が先鋭化しやすい状況である。
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「景気後退→不況」がくると考えたほうが自然
折しも金利をどんどん引き上げたことによって、「下手に株を買っているよりも国債を買って5%を超える金利をもらったほうが良い」という判断をする投資家が増えている。そういうこともあって、株式市場からカネが流出して国債に向かっているのが今の状況だ。
・需要が消えて企業収益が圧迫される。
・高金利な国債で株式市場から資金が流出する。
・グローバル経済も悪化して企業の利益率も下がっている。
そうなのであれば、これからFRBがよほどうまく動かないと景気後退《リセッション》に見舞われ、株式市場の崩落すらもありえる事態となる。そして、それが手に負えなくなっていくと、今度は不況に入っていく。
もう一度、景気循環の流れを見て欲しい。景気は「好況→景気後退→不況→景気回復」と流れていく。2022年からはじまったインフレによって、鈍い日本人ですらも「何か経済的に時代が変わったのではないか?」と気づくようになっている。
景気の循環から見ると、今は間違いなく好況が終わって「これから景気後退か来るのではないか?」「いや、もう景気後退に入っているのではないか?」と言われるような局面になっている。
「今回は景気後退もないまま好況に戻れる」と考える投資家もいるのだが、自然な流れから言うと、むしろ「景気後退→不況」がくると考えたほうが自然ではないか。
「景気後退→不況」がくると、今度はFRBは「金利低下→低金利」を間違いなく考えるようになる。「低金利」になるとどうなるのか。言うまでもなく、株式市場は上昇していくのである。
それならば、さっさと「景気後退→不況」の流れを踏んで、急いでそれを終わらせて、次の「景気回復→好況」の波を早めたほうがいいと思わないだろうか。サイクルを早くすれば「景気回復→好況」が早く来る。それは、悪い話ではない。
このようにサイクルを意識してみていくと「景気後退→不況」は、かならずしも悪いものではないことがわかるはずだ。四季のようなものであり、経済の動きからみると起きて当たり前のものなのだ。
この中で株式市場が下がったのであれば、それは「買いどきが来た」という話でもある。「景気後退→不況」の中の投資が、むしろ投資家に富をもたらす環境であるとすらも考えているほどだ。