AIプロセッサでPCも激変する。人工知能のパラダイムシフトから目が離せない

AIプロセッサでPCも激変する。人工知能のパラダイムシフトから目が離せない

今、怒濤の勢いで社会を変革しようとしているのがAI(人工知能)なのだが、今までのAIはクラウドやデータセンターばかり注目されてきた。しかし、いよいよこれがPCにまでブレイクダウンされようとしているのだ。NPUプロセッサでPCも激変する。AIのパラダイムシフトから目が離せない。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

 NPU(Neural Processing unit)

DELLの株価が2024年5月に入ってから急騰している。同じくHPの株価もまた5月に入ってから急騰している。これは、2020年からはじまったパンデミック期の買い替え需要が起こっていることもあるのだが、それよりも大きいのはPCが大きく変化しようとしていることも大きい。

何が起きているのか。

今、怒濤の勢いで社会を変革しようとしているのがAI(人工知能)なのだが、今までのAIはクラウドやデータセンターばかり注目されてきた。しかし、いよいよこれがPCにまでブレイクダウンされようとしているのだ。

マイクロソフトは「Copilot」をOSやオフィス製品に密接に組み込み、さらにキーボードにもCopilotキーをわざわざ増やすほどPCをAIファーストにしようとしているのだが、PCに起きている変化はそれだけではない。PCはチップそのものから変化しようとしている。

それが、NPU(Neural Processing unit)、通称AIプロセッサである。

よくCPUはPCの頭脳であるといわれるのだが、このCPUからグラフィック性能の処理を特別に処理するように役割分担したのがGPUである。そして、今度は人工知能を高速化するためにNPUが生まれてきた。

ニューラルとは神経系を意味する。人工知能においては、これを模倣したコンピュータモデルが使用されており、これが人工ニューラルネットワークとして具体化された。そのため、人工知能専用のプロセッサは「ニューラル プロセッシング・ユニット=NPU」と総称されるようになっている。

今後、PCはこの「NPU」を組み込んだハードと、人工知能にアクセスするためのOSが密接に組み合わさって、これまでとは違うPCとして進化する。それが2024年の今、目の前で起きている。

【金融・経済・投資】鈴木傾城が発行する「ダークネス・メルマガ編」はこちら(初月無料)

投資先としてのDELL($DELL)やHP($HPQ)

このNPUが組み込まれたPCは、「AIPC」と呼ばれるようになっている。今後、AIはクラウドで処理されるものと、PC側(ローカル)で処理されるものに区分されていく。

もし、ローカル側でAIを処理するのであれば、AIに特化したプロセッサが搭載されていないとPCの処理が追いつかない。具体的にいうと、PCが非常に遅いものになってしまう。AIはとくに即時性も求められるわけで、これは困る。

そのため、今後のPCはNPUプロセッサは必須になっていくはずだ。だからこそ、PCメーカーのDELLやHPに期待が寄せられ、それが株価に反映するようになっている。今後もPCのハードメーカーは大きな恩恵を受ける可能性がある。

投資先として、DELL($DELL)やHP($HPQ)に目を向ける投資家がいるのは理解できる。かなり有望かもしれない。もちろん、それと同時にNPU(ニューラルプロセッシングユニット)を提供している主な企業にも投資家には強い関心が寄せられるはずだ。具体的にいうと、次の4つの企業である。

インテル($INTC)
AMD($AMD)
NVIDIA($NVDA)
Qualcomm($QCOM)

インテルは、第13世代「Core Ultra」プロセッサに「インテル AI ブースト」というNPUを統合している。インテルはAIPCの普及を強く後押ししているのだが、2025年末までに1億台のPCがAIアクセラレータ(NPU)を搭載すると予測しているほど強気だ。

AMDはRDNA3にNPUを統合していく。ちょうど1か月前、AMDは「Ryzen Embedded 8000」シリーズを発表しているのだが、ここに強力なNPUが内臓され、AI処理性能を向上させている。今年中には新たなプロセッサも登場するのだが、これによってAI性能が最大3倍に向上するとも噂されている。

【ここでしか読めない!】『鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』のバックナンバーの購入はこちらから。

まだまだ【SMH】の勢いは続いていくのではないか

NVIDIAはGeForce RTX 40シリーズにデュアルAVA(AI Video Assist)と呼ばれるNPUを搭載している。NVIDIAはデータセンター向けの超高性能GPUで世界でもっとも重要な企業となっているのだが、個人向けのNPUでも存在感がある。

Qualcommも、Snapdragon 8 Gen 2チップで「ヘキサゴンAI プロセッサ」というNPUが搭載して販売している。

Qualcommは一般にはあまり知られていないが、無線通信技術で世界最強の企業で、スマートフォン向けチップセットの設計・供給を主力事業としている半導体企業である。NPUの分野でも頭角を現している。

このNPUの分野でひとつひとつに投資するのも興味深いが、こうしたNPU企業を含め、主要な半導体企業をひとまとめに投資することも可能だ。それが、SMH(VanEck Vectors Semiconductor ETF)である。

このETF【SMH】には、インテルも、AMDも、NVIDIAも、Qualcommも、すべて含まれている。さらに、ブロードコムやマイクロン・テクノロジーのような有望な銘柄も含め、AIで恩恵を受ける半導体セクターの企業が丸ごと含まれている。この銘柄ひとつで半導体セクターに分散投資ができる。

ETF【SMH】も5月に入ってからぐんぐんと株価を上げている。今は史上最高値を更新中だ。しかし、データセンターやAIPCへの莫大な投資はこれからも続くことが期待されているわけで、まだまだ【SMH】の勢いは続いていくのではないか。長期的なリターンが期待できるETFのひとつでもある。

ハイテクへの投資としてはETF【QQQ】もよく選択されているのだが、過去5年の比較では、【SMH】のほうが圧倒的にパフォーマンスが高く、とにく人工知能が一気に台頭した2024年からは圧倒的なパフォーマンスで【QQQ】を引き離している。

AIへの設備投資が続いている限り、【SMH】はなかなか面白い投資先でもある。

ダークネスの電子書籍版!『邪悪な世界の落とし穴: 無防備に生きていると社会が仕掛けたワナに落ちる=鈴木傾城』

AIのパラダイムシフトから目が離せない

注目に値するのはAppleである。Appleは空間コンピューティングの概念を発表したばかりなのだが、人工知能の分野では大きく出遅れていると世間に見られている。

果たしてそうだろうか。AppleのM2チップには16コアのニューラルエンジンが統合されており、それがNPUの役割を果たしている。つまり、AppleはすでにNPUを「持っている」ともいえる。

近々、Appleは人工知能にどのように取り組んでハードやソフトウェアに落とし込んでいくのか、その発表がある。これまで「出遅れている」と思われているAppleがどれくらいAIを組み込んでくるのかが注目される。

Appleの株価は2023年の半ばから伸び悩み、2024年からずっと下落基調であったのだが、その理由としてiPhoneの売り上げが中国で落ち込んでいるところに、AIへの取り組みが遅れているのではないかという懸念が重なったからだ。

しかし、5月に入ってからこれまでの下落が嘘のように力強い伸びに戻ってきている。成果の出ないEVを切り捨てて、AI重視に振り切ったあたりから「Appleも期待できそうだ」という意識が投資家に戻ったように見える。

AppleもAIファーストになって、OSとハードにAIを密接に組み込んでいくと、Appleの価値はさらに上がっていくことになるのだろう。そういう意味で、6月の開発者会議(WWDC2024)でどのような発表がされるのかは非常に重要だ。

「Appleのこれまでの開発者会議の中で、今回はもっとも重要なものになる」と述べている人もいる。それくらい「AppleのAI戦略」に注目が集まっている。ハード的にもソフトウェア的にも、相当なレベルでAIが強化されていくだろう。もし、そうならなかったら、それこそAppleでも見捨てられる。

macOSも、iOSも、iPadOSも、watchOSも、visionOSも、すべてのOSに人工知能が深く組み込まれ、Macにも、iPhoneにも、iPadにも、NPU的なプロセッサが組み込まれ、強化されていくはずだ。

このように、PCの分野でも各社が「NPU」の分野で激しく技術争いをしており、怒濤の勢いでAIPCが社会を席巻していくことになる。これまでのPCとは違い、どのPCもAIファーストとなる。

AIのパラダイムシフトから、目が離せない。

邪悪な世界のもがき方
『邪悪な世界のもがき方 格差と搾取の世界を株式投資で生き残る(鈴木傾城)』

鈴木傾城のDarknessメルマガ編

CTA-IMAGE 有料メルマガ「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」では、投資・経済・金融の話をより深く追求して書いています。弱肉強食の資本主義の中で、自分で自分を助けるための手法を考えていきたい方、鈴木傾城の文章を継続的に触れたい方は、どうぞご登録ください。

投資カテゴリの最新記事