FRBの金利引き下げで為替は「ドル安」に傾き、日銀のマイナス金利解除で為替は「円高」に傾くわけで、2024年は基本的には「ドル安円高」のベクトルになっていくというのが市場のコンセンサスとなっている。ただ、誰もがそう思っていたら、そうならないのも市場だ。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
2024年はいよいよこの「ドル高円安」が是正される?
2024年はFRB(連邦準備銀行)が金利を引き下げる年になると予測されている。同時に日銀がマイナス金利を解除する可能性も指摘されている。これらの時期については、それぞれ意見がわかれているのだが、おおむねそのような方向で動いているというのは間違いない。
とすれば、FRBの金利引き下げで為替は「ドル安」に傾き、日銀のマイナス金利解除で為替は「円高」に傾くわけで、2024年は基本的には「ドル安円高」のベクトルになっていくというのが市場のコンセンサスとなっている。
ただ、誰もがそう思っていたらなかなかそうならないのが市場というもので、もしかしたら「今年はドル安円高になる」と一方的に決めつけるのは危険かもしれない。
私自身は通貨にレバレッジをかけているわけではないので、どちらに向かったとしても破綻するようなことはない。しかし、私の資産の大半はドルなので、本来であればドル高になってくれたほうが望ましい。
とは言え、生活圏は円なので極度のドル高円安はそれはそれで困る。あまりの円安だと海外に出たいという気持ちさえ起きない。事実、海外に出た人たちは円安で悲鳴を上げている。円安だと何でも高く感じてしまうのである。
そういうのは海外に出なくても感覚としてわかるので、今の円安のレベルだとまるっきり海外に行く気が起きない。要するに、私は「ほどほどの水準」を望んでいて、その観点から言うと今は「ドル高すぎる」と感じている。
2024年はいよいよこの「ドル高円安」が是正される可能性がある。
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2023年7月に発表されたビッグマック指数から
両国間の物価を図るモノサシとして購買力平価がある。例えば、ある商品が日本で140円で売られていてアメリカでは1ドルだったとする。その場合、1ドル140円であれば、日本でも米国でも等しい水準となるという考え方だ。
面白いことに、ビッグマック指数という冗談のような指数がある。
ビッグマックは世界中の多くの国で販売されているが、材料や調理法などがほぼ共通で基本的に同じ商品となっている。そのため、ビッグマックの価格を比較することで、各国の物価水準を比較することができる。
ちなみに2023年7月に発表されたビッグマック指数は、
アメリカ 5.58ドル(803.52円)
日本 3.53ドル(508.32円)
となっていて、その差は2.05ドルある。2023年7月はドル円は144円だったので、円で計算すると括弧内の価格となる。日本円での差は295.2円となる。
2.05ドル(295.2円)だけアメリカは高いということもできるし、2.05ドルだけ日本は安いということもできる。通常、これは国の豊かさを図るモノサシにもなるのだが、注意深く扱うと「為替レートのゆがみ」もこれで感じることができる。この価格で、ドル・円相場の購買力平価を調べると、
508.32÷5.58=91.09
となって、ドル円相場は「1ドル=91.09円」が購買力平価ということになる。円は約91円まで円高になってやっと釣り合うという話なのだ。現在は144円あたりなのだから、ビッグマックから見ると、日本は「えらく円安だ」という話でもある。
それならば、「今後はFRBも利下げするし、日銀のマイナス金利を解除する可能性もあるし、円高に振れてもおかしくないだろう」という考え方は一理ある。
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日本人ですらも「もはや日本には未来がない」と確信
ただし、「FRBが利下げする」と言っても、市場が望むほど早く利下げするかどうかは状況次第だし、もしかしたら市場が考えているほど早く利下げがくるかどうかはわからない。インフレ懸念が高まったり、労働市場が強ければ、FRBは利下げについては様子見するかもしれない。
そういう動きが見えたら為替の動きはとたんに不透明になる。そもそも、FRBが利下げしたからと言って、すぐに円高に振れるという保証も最初からない。
どういうことなのかというと、「ドルの金利が低下していくのだから円を買おう」という動きに必ずつながるとは限らないということだ。今のFFレートは5.25~5.50%である。仮に今年のどこかで0.25%の利下げがあったとしても、5.00~5.25%である。
利下げしても「まだ高い」のである。利下げしても「まだ高い」ドルから、何が悲しくてマイナス金利の円を買わないといけないのか、という話だ。
ドルの魅力が下がるので、それなら外国に目を向けるかという動きはあっても、その外国が「円」である理由はひとつもない。
人口動態から見ても衰退国であることが隠せず、政治は脆弱で岸田政権どころか自民党すらも瓦解しそうな政治不信まみれの国で、イノベーションを生み出すチカラも喪失しつつあり、さらに災害続きの国の通貨を求める外国人投資家はそれほどいるようには見えない。
そもそも、日本人ですらも「もはや日本には未来がない」と思うようになり、投資は米国の株式市場を選択して事実上のキャピタルフライトを行っている。日本人も日本から逃げ出している。キャピタルフライトは当然だが円安をもたらす。
さらに日本は東日本大震災のあった2011年から貿易赤字が止められない国となってしまっている。輸入額が輸出額を上回ると、その分円を外貨に換えて支払う必要がある。そのため、ここでも円安が進みやすくなる。そういう傾向が見て取れる。
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日本の円はもっと価値をなくして「円安」になっていく?
そういうのもあって、2022年3月頃からはじまった円安が、今後のFRB(連邦準備銀行)の金利政策の変更である程度の円高に戻っていくのはあるとしても、一気に円高に振れるのかと言われたら、案外そうではない余地もあると私は見ている。
相場の動きは変数が多すぎるので誰にも予測できないものだが、2024年の為替相場もまた何度も何度も人々の予想を裏切るような動きになっても驚きではない。
ただ、私は長期目線で見た円は間違いなく「円安」であると考えている。
30年も国を成長させることができない政党・政治屋がこれからも日本に居座り、国民は老いていき、人口は減っていき、労働環境は悪く、人手不足が深刻化し、イノベーションは消え、増税や社会保険料の引き上げで国民負担が過酷になり、経済格差が極限まで開いていき、キャピタルフライトが起きようとしているのが今の日本だ。
通貨の価値は最終的には国の価値と同期する。日本が経済的にも社会的にも弱体化していくのであれば、国の通貨である「円」の価値が今よりも低いものになったとしても何の不思議もない。
とすれば、遠い未来のどこかは、日本の円はもっと価値をなくして「円安」になってしまってもおかしくないのだ。
少なくとも私は資産を日本円で持っておくことが正しいことであるとはまったく思っていない。
2009年から2012年までの民主党政権によって「この国はもう終わった」と感じた私は、その2012年に資産のほぼすべてをドルに変えて資産を円から切り離したのだが、あれから12年たった今も資産すべてを円に戻したいという気持ちにはなれない。
あと10円や20円くらい円高になっても円に戻したくない。どのみち、最終的には今の円安が可愛いと思えるくらいの地獄の円安になっていてもおかしくないからだ。