ネットいじめ。誹謗中傷が渦巻く時代にはそれに対応するスキルが重要になる

ネットいじめ。誹謗中傷が渦巻く時代にはそれに対応するスキルが重要になる

昔はいじめを受けても「その場限り」の話だったが、今ではインターネットで言葉としてずっと残っていく。一方的にいじめを受けている場面が「記録」され、その気になれば誰もがそれを見ることができる。苦痛が執拗に続き、大多数に知られ、昔とは考えられないほど追い込まれる。インターネットは、いまや一部の子供たちにとって地獄と化している。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

子供たちの間で、スマートフォンによる「新たないじめ」が定着した

2018年は333人だった。2019年は339人だった。2020年は479人だった。何の数字か。これは児童生徒の自殺者数である。2020年の479人は過去最多となっている。

子供たちの自殺は、進路に関する悩み、学業不振、親子関係の不和などが取り上げられているのだが、「いじめ」もまた児童を自殺に追い込む要因ともなっている。

2020年10月22日。文部科学省は2019年度の『問題行動・不登校調査』の調査で、全国の国公私立の小中学校と高校、特別支援学校で確認されたいじめは、過去最多の61万2496件になっていたと発表した。

2010年あたりは10万件に満たなかったことを考えると、ここ10年でいじめの件数は「爆増」しているのである。

これは、いじめが社会問題化して「相談されやすくなった」ということもあるのだが、もうひとつ指摘されているのはスマートフォンによる「新たないじめ」が定着したということだ。

SNSや裏掲示板などに、相手の悪口や中傷や罵倒などの言葉を投げつけるのである。こうしたいじめを「ネットいじめ」と呼ぶのだが、文部科学省は2019年度の調査で1万7924件あったと報告している。

この「ネットいじめ」が増えている。

最近、北海道旭川市で廣瀬爽彩という14歳の女の子が無理やり奢らされたり、外で自慰行為をさせられたり、性的な写真を要求されるような壮絶ないじめに遭っていたことが発覚している。

彼女はわいせつな画像を無理やり撮られて、それを学校中に拡散させられていた。彼女は今年2月13日に行方不明になった。凍てつく旭川市の2月。薄手で公園をさまよっていた彼女は力尽きてそのままマイナス17度の凍てつく厳寒の空気の中で凍死してしまった。

いじめ抜かれた14歳の少女の、あまりにも残酷な死だった。

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いじめられても誰にも相談せずに耐えている子供たちの方が多い

無理やり猥褻な画像や動画を撮られてクラス中に拡散される……。多感な思春期でなくてもPTSD(心的外傷後ストレス障害)になってもおかしくない凄絶極まりない「いじめ」である。

インターネットは、今や一部の人間だけのものではない。大人だけでなく、子供たちも日常的にアクセスする場所になっており、それに比例してネットいじめも増え続ける一方となっている。

文部科学省は「2020年度の調査で1万7924件あった」と報告しているのだが、この調査は「確認されたものだけ」であり、実際にはこんなものではない。いじめられても誰にも相談せずに耐えている子供たちの方が多いのだ。

親にも先生にも、自分が何をされているのかを言わない。自分ひとりで苦しむ。いじめられている子供たちは、その多くは誰にも相談しない。

いじめはまわりが自分を「ひどい言葉」で中傷しているわけで、その言葉自体が本人を傷つけ、自分がそう言われているということを他人に言えないからだ。

自分の失敗、自分の劣等感、自分の弱点が、一番ひどい言葉で突きつけられているのだ。他人に相談するとき、それを他人に伝えられないほど、本人にとってはそれが恥辱なのだ。

また、いじめられている子供たちは内向的な性格であることが多く、「誰かに自分の現状を説明する」「誰かに相談する」ということ自体がコミュニケーション的にハードルが高い。

かくして子供たちの多くは、ひとりで抱え込み、そして精神的に追い詰められ、時には心が折れて死を考えてしまう。

中学校や高校生の自殺は、その半数が「原因不明」だと言われている。なぜ死ぬのかすらも誰にも説明しない。死の契機になった理由を他人に明かせないほど、本人を追い詰めた言葉があったと考えられる。

問題は、昔はいじめを受けても「その場限り」の話だったが、今ではインターネットで言葉としてずっと残っていくことだ。一方的にいじめを受けている場面が「記録」され、その気になれば誰もがそれを見ることができる。

苦痛が執拗に続き、大多数に知られ、昔とは考えられないほど追い込まれる。インターネットは、いまや一部の子供たちにとって地獄と化しているのである。

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そして、誰もが直接的に攻撃を受ける時代となる

もちろん、大人も他人事ではない。インターネットによる誹謗中傷、攻撃、批判、陰口は、もう誰もが他人事ではないのだ。誰もが激しい誹謗中傷の的になり、一瞬にして嵐のような中傷の対象になっていく。

かつて、誹謗中傷と言えば有名人に限られていた。そんな牧歌的な時代もあった。

しかし、スマートフォンでインターネットにつながることが当たり前になり、さらにSNSで誰もが気軽には発言できる環境が整った今、もう誹謗中傷の対象は有名人だけに限らなくなっていった。

どんな小さくて狭い世界でも、その世界の中で激しい誹謗中傷が飛び交う。

人種間で、国家間で、宗教間で、互いに互いを激しく罵り合うようになっている。インターネットは人間と人間を結びつける場でもあるが、一方で人間を徹底攻撃する場にもなっているのである。

今まで、こうした誹謗中傷を減らすために様々な方策が考えられてきた。たとえば、フェイスブックの実名主義も、本来は「実名にすれば他人を激しく攻撃する人間はいなくなるはずだ」という楽観主義から始まったものだった。

しかし、無駄だった。誹謗中傷は消えるのではなく、むしろ実名が出たことによって、明確な攻撃対象となって拡大していっている。

今後、5Gの時代に入っていくと動画がインターネットの主流に踊り出るので、より多くの人たちがインスタグラムやユーチューブや各種SNSで「顔出し」することになる。フェイスブックが「実名」をデフォルトにしたように、今度は「5G」が顔出しをデフォルトにさせる。

そして、誰もが直接的に攻撃を受ける時代となる。

宗教、思想、人種、国籍、年齢、性別、名前、容姿、話し方、しぐさ……。ありとあらゆる自分の属性が、これからは執拗かつ粘着的に攻撃されていく。そして、そこから逃れる方法は見当たらない。

ネットいじめは、これからより苛烈になっていくのだ。

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消したくとも消せないものがずっと自分に付きまとうのがネットいじめ

誰もが、いずれ誹謗と中傷にまみれる。場合によっては、一生、批判から逃れられない運命となる。消したくとも消せないものがずっと自分に付きまとう。それが「ネットいじめ」の性質である。

誹謗中傷には尾ひれが付き、正しい事実ではないことですらも、あたかも真実のように語られて、それで攻撃され続けるような理不尽なことすらも起きる。

かと言って、ネットいじめを避けるために「インターネットを使わない」「見ない」というのは、今の時代には現実的ではない。インターネットは重要なインフラである。嫌でもそれに関わっていかなければならないのだ。

巻き込まれたくないがために、インターネットで自分の存在感をとことん消しても無駄だ。自分の身近な「誰か」が悪意を持って誹謗中傷を書くこともあれば、自分が公開して欲しくないことを公開することもある。

身近な人にそんな人間はひとりもいないと言う人でも無事ではない。たとえば、私たちは日本人だが、「日本人だ」というだけで罵られることすらもあるのである。

誰もがそこから逃れられないとしたら、私たちはどうすればいいのだろうか。

「無視する」「気にしないようにする」「攻撃してきた相手を攻撃する」「訴える」等々、様々な対処方法があって、どれを採用するのかは個人によってもケースによっても違うし、それぞれ自分の性格にあった方法論がある。

その前に重要なことがある。誹謗中傷は絶対に逃れられないので、それに対応することも「スキル」であるという認識を持つことだ。それは簡単なことではないかもしれないが、これからの時代を生き抜くには必要なスキルでもある。

元々、他人から集中攻撃を受けても何も感じないほどの強靭な精神力を持ち合わせている人もいるのだが、自分がそうでなければ「スキル」として後天的に学習し、手に入れるしかない。

どんな卑劣で下劣で不快な誹謗中傷を投げつけられ、執拗な攻撃にさらされ続けても、何事もなく日常生活をきちんと送ることができるようにする。それは、まさに今の時代に求められている「スキル」なのである。

ネットいじめは子供たちの心を蝕み続けている。そうであれば、そのスキルは子供のうちから「学ばせる」必要があるということだ。早急に対策を取らないと、私たちの社会は傷ついた子供たちを量産することになる。

『いじめの構造―なぜ人が怪物になるのか(内藤 朝雄)』

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