トランプとアマゾンの対立の裏側にはいったい何があるのか

トランプとアマゾンの対立の裏側にはいったい何があるのか

2018年3月29日。全世界を制覇する巨大物流企業アマゾン・ドットコムの株価が突如として値崩れしていった。

何が起きたのか。別にアマゾンの経営に問題があったわけではない。逆だ。アマゾンに対して「やり過ぎだ」と声が上がったのだ。

それを言ったのがアメリカの大統領ドナルド・トランプであったことから、その影響力に投資家が不安を感じてアマゾンの株式を投げ打った。

トランプ大統領はどのように言ったのか。ツイッターでこのように言った。

「アマゾンを巡る懸念は大統領選前から表明してきている。他の業者と違い、アマゾンは州・地方政府にほとんどもしくは全く税金を払っていない」

「アマゾンは米郵便システムを配達少年のように使い(米国に多大な損失を引き起こし)、何千もの小売業者を破綻に追いやっている!」

アマゾンは合理的かつ効率的に儲け、グローバルに資金を移動させて国家の租税ルールからスルリと逃れる。それに苛立っているのは、ドナルド・トランプ大統領だけではない。G20も同様に、アマゾンに苛立っている。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。

世界は、とっくの昔から多国籍企業の支配下にある

何しろ、アマゾンはどこの国にも大した税金を支払わずに資金をグローバルに移動させながら儲けだけを持っていくのである。そのため2018年2月のG20ではアマゾンにどうやって課税するのかが話し合われている。

「アマゾン・ドットコムのような電子商取引業者に対する課税強化案を検討すべきだ」というのが協議対象として筆頭に挙げられているのである。

ところで、世界各国の租税ルールから巧みに逃れているのはアマゾンだけではない。すべての多国籍企業がアマゾンと同じように税金支払いから逃れている。

そして、今や国家が自分たちよりも巨大化していく多国籍企業に恐れを抱き、何とか制御しようと試みているのだ。しかし、「今さら対処してもすでに手遅れではないか」と考えるアナリストも多い。

なぜか。

もうずいぶん前から、多国籍企業がロビー活動で政治家を動かし、あるいは多国籍企業の幹部が政治家となり、政治を取り込んで世界を支配しているからだ。

そんなことは、もう子供でも知っていることだ。アメリカは特にそういった傾向が強い国だが、別にアメリカだけの話ではない。欧米でもアジアでもそうだ。

ロシアでもプーチン大統領やメドベージェフ副大統領の裏の顔はガスプロムのようなエネルギー企業の幹部である。

政治家や国家はロビー活動で動く。とっくの昔から多国籍企業の支配下にあるのだ。

多国籍企業は、国家よりも大きな資金と組織と知能を持ち、世界中に支店・支部を張り巡らせ、莫大な収益を上げながら国家以上の影響力を持っている。

たとえば、世界最大の食品会社はネスレである。その本社はスイスにある。スイス政府はタイやインドネシアに何か大きな影響力を持っているかと言えば、何も持っていない。

ところが、ネスレはタイでもインドネシアでもその商品や工場を通して莫大な影響力を行使しており、彼らから金を吸い上げている。

タイやインドネシアの中では、スイス政府よりもネスレ1社のほうが影響力としては強大だ。すでに多国籍企業は国家を超えた存在になっていて地球上に君臨しているひとつの例だ。

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現代の資本主義は、すでに多国籍企業が乗っ取った

多国籍企業をしのぐ組織体はこの世に存在しない。資本主義は多国籍企業が乗っ取った。

その結果、本来は国境という壁があったものを企業はやすやすと乗り越えて税金逃れを可能にし、さらに先進国の高賃金の労働者を切り捨てて途上国で工場を建て、失業者の面倒は国に押し付けるようになっていった。

その結果、世界各国で起きているのは「国家負担の増大」である。それは福祉や年金という形を通してどんどん国家を締め付けている。

それを是正しようとしているのがドナルド・トランプ大統領なのだが、だからこそトランプ大統領は執拗に叩かれ、攻撃され、排除されようとしているのだ。

トランプ大統領の任期には限りがある。しかし、多国籍企業には任期がない。だから、必然的にトランプ大統領という抵抗勢力が消えたら、世界は再びグローバル化に邁進していくことになるのは間違いない。

そうなると、世の中はどう変わっていくのか。

多国籍企業の利益は莫大になり、税金逃れも徹底化していくので、最終的には国家の破綻が相次いでいく。次に、国家の概念そのものが消滅する。

そして、多国籍企業が世界を統治する。

今、世界中のあちこちの国で国家財政の赤字が膨らんで、破綻が起きるか起きないかの瀬戸際にまで追い込まれている。日本も同様だ。

多国籍企業が利益を独り占めにして負担だけを国家に押しつける構図が変わらないのであれば、いずれ破綻が次々と起きる世の中になる。現代の資本主義の中で、国家は「負け犬」だからである。

国家が破綻していくと、国家の社会保障費に依存している国民もまた困窮に追いやられる。そうなると現状に対する不満が燃え上がり、「政府を破壊しろ」という過激思想もまた力を得るようになる。

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関税をなくし、所得税をなくし、通貨を1つにする

現在の「国家」は明確に危機に晒されている。国家は、このままでは機能しなくなっていく。そうなったとき、力を喪失する国家の代わりに何が生まれるのか。

それは、多国籍企業の「国民直接統治」であったとしても不思議ではない。

現在はまだ荒唐無稽に思えるかもしれない。しかし、国家の役割が縮小し、役に立たなくなれば、莫大な利益と影響力と実務能力を持つ存在が国家に取って変わるのは「合理的」な結末でもある。

私たちは多国籍企業の製品に囲い込まれ、その中で生活を成り立たせている。こうした現状を仔細に観察すると、多国籍企業が世界を動かしているのは明白に分かる。

多国籍企業によるグローバル化はどんどん進行して、今は国家という枠組みそのものが邪魔になっている。だから、邪魔な「国家」という概念が揺らいでいるのである。

この「国家」という概念を外す緩やかな動きは地域のブロック化だった。たとえば、EU(欧州連合)の実験は、その典型的なものである。

EUの目的とは、欧州から「国家の枠組み」を外すことにあった。しかし、経済統合だけ先に進めて国家主権はそのまま残したので問題が起きた。

本当は最初からすべての国家主権を国家から奪い取って中央政府を作り、ドイツ州、フランス州、イタリア州等にすべきだったのだ。しかし、財政統合だけ先にやって「国家」の運営を残したので、EUは崩壊寸前にまで追い込まれてしまっている。

ところで、EUは通貨統合を先に行ったが、通貨を統合することによって誰が得をしたのか。

もちろん、多国籍企業である。国境も、通貨も、多国籍企業にとっては邪魔なものでしかなく、また地域愛・郷土愛すらも多国籍企業には邪魔なものだ。

国境は商品の流通には邪魔だ。多通貨は商品の価格決定に邪魔だ。国家は関税をかけてくるので邪魔だ。国家は所得税をかけてくるので邪魔だ。

だから、多国籍企業は国家という枠組みを破壊し、国境をなくし、関税をなくし、所得税をなくし、通貨を1つにまとめようとしている。この世の中の動きが見えれば、世界で何が起きているのかが分かる。(written by 鈴木傾城)

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アマゾンのCEOジェフ・ベゾス。多国籍企業は国家という枠組みを破壊し、国境をなくし、関税をなくし、所得税をなくし、通貨を1つにまとめようとしている。この世の中の動きが見えれば、世界で何が起きているのかが分かる。

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