
かつてセキュリティで問題を起こしていたクラウドもすでに堅牢になった。各社のセキュリティ強化の取り組みを経て、私ですらもクラウドに移行した。私よりも割り切っている人ならば、もはやプライバシーのほぼすべてをクラウドに移行していたとしても不思議ではない。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
クラウド関連の銘柄はコロナ禍において一気に上昇
新型コロナウイルスによって人々は今もステイホームを余儀なくされているのだが、これによって人々は家庭でもパソコンに向き合う時間が公私共に増えていき、Web会議を筆頭としたリモートワークが必須の社会となっていった。
リモートワークとはネットワークを介した仕事なのだが、ここで重要になってくるのは言うまでもなく「クラウド」である。人々が各々のデータをローカルに保存していては多人数で仕事ができない。また、セキュリティ的にも問題がある。
では、どうするのかというと、クラウド・サービスを使うことになるのだ。クラウド・サービスによってリモートワークが可能になる上に、セキュリティも担保され、ファイルの紛失問題もなくなる。
こうしたクラウドで構築されたソフトウェアのことをSaaS(Software as a Service)と呼ぶ。コロナが時代をよりデジタル優先に加速させたという現状が目の前にある。
世の中がデジタルに置き換わっている。この動きをDX(デジタル・トランスフォーメーション)と呼ぶ。
一度、DXにシフトしたら時代は決して後戻りすることはない。クラウドの重要性はこれからも続いていく。だから、Google、Apple、Microsoft、Amazon等のハイテク産業の巨人は、こぞってクラウドに莫大な投資を行ってユーザーの囲い込みを行っているのだ。
いったん、囲い込みに成功すれば、そこからは継続的な「日銭」が入って収益は安定することになる。クラウドは今や巨大ハイテク企業にとっては欠かすことのできない最重要分野なのである。
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「インターネット、自分撮り、クラウド」で悲劇が
私自身は2012年頃まではクラウドのセキュリティに非常に懐疑的で、自分のデータをクラウドに保存するのをためらった。クラウドに関しては、遅かれ早かれセキュリティ関連から大きな問題が引き起こされると見ていた。
それが的中したのが2014年だった。
この年、Appleのクラウドである「iCloud」にデータを保存していたハリウッド女優たちのアカウントがハッキングされて、彼女たちのヌードが大量にばらまかれるという大惨事が引き起こされた。
インターネット、自分撮り、クラウド。この3つが大量流出を生み出したのである。甘いパスワードを使用していると、ハッカーの「ブルートフォースアタック(総当たり攻撃)」の手口で簡単に破られる。
ブルートフォースアタックとは、ウィキペディアではこのように説明されているものだ。
『暗号や暗証番号などで、理論的にありうるパターン全てを入力し解読する暗号解読法。例としては、自転車のチェーンロックやトランクのダイヤル錠を、全ての番号の組み合わせ(4桁なら0000から9999まで)を片っ端から試す方法と同じで、この「片っ端から」で、いずれ正解に行き着こうというもの』
自分の名前、生年月日、あるいは「password」やら「12345」のような甘すぎるパスワードをクラウドに設定して、そこに自分のプライバシーのすべてをありったけ保存しているというのは、鍵をかけていない自分の家に現金すべてを置いておくに等しい。
Appleのクラウドにプライバシーのすべてを保存してハッキングされた2014年のハリウッド女優ヌード流出事件は、クラウドの危険性を如実に示すものとなった。
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やっと私もクラウドを使うようになっていった
AppleのiCloudのプライベート写真流出事件では、ヌードが大量流出してしまった女優たちが最も衝撃を受けたはずだが、それに劣らず大きなダメージを受けたのはクラウドを運用していたAppleだった。
以後、Appleはクラウドに関しては神経質なまでにセキュリティ重視とプライバシー保護に突き進むようになり、大きな問題を引き起こすことは次第になくなっていった。Appleは「とにかくデータを守る」ことに徹するようになった。
今や警察当局すらもAppleのクラウドに保存されたデータにアクセスすることができなくなってしまっているほど、そのデータは頑丈に守られている。
フェイスブックが、ユーザーのデータを簡単にのぞいて切り売りしているのとは対極の姿勢になったのは、こうした悲劇的な事件があったからでもある。
この事件以後、Google、Microsoft、Amazonもセキュリティをかなり強化するようになり、やっと私も2015年から2016年あたりからクラウドを使うようになっていった。
今ではどのSaaSも二段階認証プロセスが当たり前になっている。すでに、金融機関もインターネット上で入金や送金や預金確認のサービスを提供しているわけであり、二段階認証プロセスがなければ危険極まりない。
増え続けるSaaSのパスワードに関しては、シングルサインオンも用意されている。
脆弱性の元になっているメールアドレスに関しては、Appleはいつでも削除可能な使い捨てのメールアドレスを作れる機能を提供して本元のメールアドレスを守る仕組みを2021年9月20日から用意している。
Microsoftは脆弱性が付きまとうパスワードから脱却して、2021年9月15日から、Microsoft Authenticatorアプリ、生体認証機能Windows Hello、メールかSMSのコードのいずれかを利用することによって「パスワード不要のログイン」を実現するようになっている。
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いまややモンスター化しているという認識を持て
各社のセキュリティ強化の取り組みを経て、私ですらもクラウドに移行した。私よりも割り切っている人ならば、もはやプライバシーのほぼすべてをクラウドに移行していたとしても不思議ではない。
同じクラウドに大事なデータを保管するというのであれば、誰もが考えるのが「絶対にサービスが止まらず、ハッキングにも強く、名の知れた安心できる企業に預けたい」ということだ。
自分のデータを預けるのだから、聞いたこともないような新興企業であれば躊躇してしまうし、思い切って預けたとしてもサービスがいつしか停止したり、データが吹き飛んでしまうような重大事故が起きたりすることもある。
またユーザーが増えれば増えるほどアクセスのスピードが落ちたり、サービスの質が悪くなることもある。
そう考えると、クラウドにデータを預けたりサービスを構築するのであれば「絶対に安心できる大手のクラウドを使いたい」と考えるのは当然のことだ。クラウドは、ある意味「巨大な大手が圧倒的なアドバンテージを得る世界」であると言える。
すでにクラウドでは大手が大手同士で苛烈な価格競争を行っているので、巨大なスケーラビリティを持った企業でないと太刀打ちできない領地になっている。だから、Google、Apple、Microsoft、Amazonの4大巨頭は互いに競争しながらも4社独占の世界になろうとしている。
クラウドと言えば、他にもIBMやOracleやAdobe等も独自のクラウドを用意しているのだが、スケールや質で言えばまだまだ先頭にいる4大巨頭に敵わない。
クラウドはいったん独占できれば長きに渡ってユーザーを囲い込めるので大きな利益が転がり込んでくることになる。そのような観点から見ても、4つの巨大ハイテク企業は突出した影響力を持ち続けることになる。
Google、Apple、Microsoft、Amazonは、いまや規模においても影響力においても社会的重要性においてもモンスター化した特別な企業と化している。これらの企業の重要性は、DX化が進む中で、より増していくことになる。
