「こんな社会を打ち壊したい」と思う人は大勢いる。もし正攻法では日本社会を変えられないのであれば、危険な考え方をする人が登場しても別におかしくはない。テロや、破壊的暴動や、クーデターは、一瞬にして社会を変える力があるのは歴史が証明している。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
もう5割以上の人が投票に関心を示していない
今の政治家は、議員会館の家賃を下げたり、旧文通費100万円を報告の義務なしに好き勝手に使ったり、公務員の給料を上げるという大義名分で自分たちの給料もどさくさにまぎれて上げたり、寄付という名のワイロをもらったり、利権でカネをキックバックしてもらったり、パーティー開いて裏金を作ったりして、一心不乱に私利私欲に走っている。
一方で国民は増税され、控除を剥がされ、社会保障費を引き上げられ、国民負担率を50%近くにされ、それでいて実質賃金はマイナスのまま放置されて貧困層が増大するような状況に蹴落とされている。
岸田首相は「令和の所得倍増」とか「令和の資産倍増」とか口当たりの良いことを言って首相になったのだが、首相になった瞬間に何も言わなくなった。「新しい資本主義」だの「異次元の少子化対策」などと言いながら、やっていることは増税や増税の検討だけであったりする。
それで、岸田首相も自民党も支持率が危険水域にまで転がり落ちているのだが、日本を成長させる能力がなく、まして国民を軽視する姿勢しかないのであれば、もう岸田政権も賞味期限切れと言ってもいい。
しかし、それでも国民の大半は「自民党以外に政権運営できる党はない」という悲しい現実の中で自民党を「消極的支持」するしかない状態にある。
実際、統計を取ると、どこの政党も支持なんかできないという意味の「支持政党なし」が6割近い数字になるわけで、「もう国民は政治を見捨てている」というのが現状だ。衆議院選挙にしても、参議院選挙にしても、統一地方選挙にしても、投票率は右肩下がりで、もう5割以上の人が投票に関心を示していない。
すなわち、「いくら選挙したところで日本は変わらない」と思っている。
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何も変わらないまま、今の無能な政治がずっと続く
結局、日本は選挙制度も民主主義も、事実上「終わっている」と言っても過言ではないような状態でもある。
もちろん、志ある人々が立ち上がっている。こうした現状を変えようと、保守の新党がいくつも出てきているし、これからも出てくるのは間違いない。手をこまねいて日本を凋落させたくないと思う人たちがいる証拠である。
ただ、統計データを見ると、彼らは日本を変革できるほどのムーブメントを起こしていない。だいたいどの新党も、今は一部の熱心な支持層がいるだけで終わっている。
そこから傑出した指導者が日本を席巻して、今の閉塞した政治情勢をひっくり返して「新しい日本」を作り出す可能性はゼロではないのだが時間がかかりそうだ。しかし、日本はもう悠長に新しい政党や指導者が育つのを待ってられない。
この国はもう30年以上も経済的に停滞してしまっており、経済大国と呼べるような状態でもなくなっている。貧困層も莫大に増え、少子高齢化も解決できないので、日本はその両方で押し潰されるような国となる。
社会保障費はもっと膨らみ、国民負担は苛烈になる。日本を変えるのに10年も20年もかかっていたら、その間に日本は時間切れだ。場合によっては、日本を立て直すのは不可能になっているかもしれない。
もともと日本人は変化を嫌う国民で、見込みがないとわかっていてもいつまでも同じことを続ける気質がある。「外圧でしか変われない」とも言われているが、そういう国民性がある。
そんなわけで、日本は政治的には劇的に変革ができるような柔軟性を失っており、今後も何も変わらないまま「今の無能な政治がずっと続く確率が高い」ことが読み取れるはずだ。
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本物の変革者は政治家ではなくテロリストを目指す?
しかし、「こんな社会を打ち壊したい」と思う人は大勢いる。議員になっても社会を変えるのに時間がかかりすぎるのであれば、どうするのか。座して死を待つ日本人ばかりではないだろう。
正攻法では日本社会を変えられないのであれば、「素早く社会を変革したかったらテロだ」という考え方をする人が登場しても別におかしくはない。テロや、破壊的暴動や、クーデターは、一瞬にして社会を変える力があるのは歴史が証明している。
余裕のある社会では政治テロは否定される。しかし、景気が悪化して窮乏し、追い詰められ、それが政治家の無能のせいでもあるのならば、いずれは政治テロが正当化される空気感が生まれてくる。
社会に対する復讐感情《ルサンチマン》を持つ人間が必ず生まれてきて、それが政治テロにつながっていくのである。
別に政治テロは珍しいものではない。日本でも政治テロで議員が死ぬような事件はしばしば起きている。
1889年には当時の外務大臣であった大隈重信が爆弾テロで片足を失うような重傷を負った。1909年には伊藤博文元首相が、中国のハルビン駅で韓国人に銃撃されて殺された。1921年には原敬首相が東京駅で刺されて死亡した。
1930年には浜口雄幸首相が同じく東京駅でピストルで狙撃されて死亡した。1932年には前大蔵大臣だった井上準之助が狙撃されて死亡した。
さらに5月15日には国家改造を目的とする海軍将校・陸軍士官候補生18名が犬養毅(首相)を射殺するという五・一五事件が起きている。1936年には、二・二六事件が起きて、斎藤実・内大臣、高橋是清・大蔵大臣、渡辺錠太郎・陸軍教育総監がそれぞれ射殺されている。
1960年には日本社会党委員長だった浅沼稲次郎が刺されて死亡した。2022年には統一教会問題に絡んで安倍晋三元首相が狙撃されて死亡した。
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ルサンチマンの標的が政治家に向かないと思ったら大間違い
政治テロはいくつもの理由で発生する。世界中のテロを見ていると、だいたい、次のものに集約される。
・政治的な不満と閉塞感
・民族や宗教的対立
・経済的な不平等と貧困
・外国の介入と侵略
・歴史的な紛争と復讐
・過激なイデオロギーと運動
現在、日本では自民党が見捨てられつつあるのだが、自民党に変わって政権運営ができそうな野党が見当たらない。どこを見ても日本を変えられそうな政治家がいない。だから、自民党を「しかたなく」支持するしかないと大勢の人が頭を抱える。
それは国民にとっては大きなストレスでしかない。こういう不満や閉塞感に危機感を持つ人やグループの中には、もうどんなことをしてでも自民党を終わらせるしかないと思いはじめることもあるはずだ。
折しも自民党は、人手不足に危機感を抱いた経団連に請われるがまま大量の外国人を、留学生・技能実習生・単純労働者・インバウンドの形で日本に入れて「隠れ移民政策」を進めているのだが、その結果として日本国内でも民族対立・宗教的対立が生まれつつある。
経済的な不平等と貧困も広がっている。周辺国とは今も歴史的な軋轢を抱えており、事あるごとに隣国憎悪と衝突が起きる。中国に至っては膨張主義政策を取っており、日本の政治家もカネとハニートラップで取り込まれてしまっている。
だからこそ、過激なイデオロギーと運動がこれから日本の裏側で生み落とされて、支持されて、政治テロに向かっていくのも不思議ではないのだ。ルサンチマンの標的が政治家に向かないと思ったら大間違いだ。
政治家はいつまでも「自分たちは安全地帯にいる」と思わないほうがいい。あまりに無能すぎると、やがて何かが起こるだろう。