アメリカのTikTok禁止法案の動き。国家安全保障に大きなリスクになる中国を排除

アメリカのTikTok禁止法案の動き。国家安全保障に大きなリスクになる中国を排除

2024年3月13日、米国下院はTikTok禁止法案を可決させた。アメリカの議員は「TikTokを国家安全保障上のリスク」と認識しており、それがTikTokの禁止法案の動きにつながっている。ただ、TikTok禁止法案にバイデン大統領が署名したら中国共産党も反撃をしてくる。果たしてどうなるか……(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

「TikTokを国家安全保障上のリスク」と認識

2024年3月13日、米国下院は中国・北京に本拠を置くハイテク企業「バイトダンス」に、TikTok(ティックトック)を売却するか、アメリカでのショートビデオアプリの禁止を強制する法案を可決している。

TikTokは、1億7000万人以上の米国ユーザーを抱えるSNSプラットフォームなのだが、個人情報がしばしば中国に送られるという疑惑のバックドアが指摘されている。アメリカ人の個人情報は、中国共産党にわたっている可能性がある。

そのため、アメリカの議員は「TikTokを国家安全保障上のリスク」と認識しており、それがTikTokの禁止法案の動きにつながった。言うまでもないが、中国は情報監視国家であり、知的財産窃盗国家である。

最近は、中国製の港湾クレーンに偵察機器が設置されて情報が漏洩していたことがわかっている。TikTokのような人気アプリで個人情報を取れるのであれば、中国共産党政権はいくらでもそれをする。

この法案は今後、上院で審議されて、もしそこでも過半数の賛成が得られたら、今度はバイデン大統領が決定をくだすことになる。バイデン大統領がこれに署名すると、バイトダンスは165日以内にTikTokを売却しなければならない。

そうしなければ、TikTokは米国のアプリストアから禁止され、今後はいっさい使えなくなる。法案は、政府機関だけでなく、個人所有のデバイスも含むすべての米国国内でのTikTok利用に適用される。つまり、アメリカ政府による事実上の中国アプリの締め出しだ。

ハイテク企業「バイトダンス」はアメリカ市場から撤退するか、強制的にアメリカ企業に買収されることになる。

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「中国による世論操作」の可能性も指摘されている

下院では、このTikTok禁止法案については352対65だったのだが、これを見てもわかるとおり、圧倒的多数の議員がTikTok禁止に賛成している。実は、TikTok禁止については「アメリカ人の個人データが危険にさらされる」という問題とは別に、もうひとつの問題点も浮き彫りにされていた。

それは、今まさにアメリカで行われている大統領選挙でも、中国がTikTokで世論に影響を与えようとする「中国による世論操作」の可能性があることだ。

中国が自分たちに都合が良いと思う候補者を推奨し、そうでない候補者をけなすアルゴリズムを動かしたら、それは大きな世論操作になる。

TikTokのアルゴリズムは、ユーザーの興味に合わせたコンテンツを表示するように設計されているのだが、その結果、「特定の政治思想」や「中国有利の意見」に偏った情報が表示される可能性があるのだ。

中国がそのような世論操作を行うと、アメリカの大統領戦すらも中国が操作することになるわけで、それは個人情報の漏洩以上に大きなリスクでもある。

具体的に「中国共産党が利用する可能性を排除できない」と述べているのは民主党筆頭委員のラジャ・クリシュナムルティ下院議員である。法案草案の中心となったのは、共和党のマルコ・ルビオ上院議員で、「北京に支配されたティックトックを永久に禁止する時が来た」と発言している。

つまり、この法案の提出者は共和党議員も民主党議員も、下院議員も上院議員も含まれており、アメリカの超党派での動きとなっている。さらに、長らくTikTokの疑惑的な動きを追っていた米司法省のリサ・モナコ副長官もこのTikTok禁止法案に絡んでいる。

米司法省は、2023年に起きたTikTokによるアメリカ人記者の情報監視疑惑を長らく追ってきて、TikTokをまったく信用していない。

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TikTokは中国政府によって管理されていない?

こうした動きに対して、TikTokのユーザーの一部は「表現の自由の侵害である」と激しく批判しており、バイトダンス自身も「TikTokは中国政府によって所有または管理されていない」と述べている。

「TikTokは米国のデータを海外ではなくオラクルが所有するサーバーに保存している」

ただ、この反論も実は意味を為さない。中国共産党が管理しないとバイトダンスがいっても、中国共産党は2017年に国家情報活動の強化と国家安全保障の強化を目的とした「国家情報法」を制定している。

どういうものかというと、中国共産党が「国家安全保障にかかわる」と判断したものについて、中国企業は有無をいわさず情報を提供しなければならないという法律だ。個人や企業は、国家安全部、軍事情報機関、公安部から依頼があれば「法に基づいて国家情報活動に協力し、秘密を守る義務を負う」のだ。

つまり、バイトダンスによる「TikTokは中国政府によって所有または管理されていない」というのは「今は」というだけで、中国共産党が情報を出せと命令したら、秘密裏に情報を出さなければならないことになる。

「TikTokはアメリカのオラクルが所有するサーバーに保存している」というのも、失笑ものの言い訳で、アプリがバックドアを作って、情報を中国政府が管理しているサーバーに送ったら、米国の情報がアメリカのサーバーに保管されていたとしても、意味がなくなる。

さらに、アメリカのサーバーに保管されたデータに関しても、アメリカ在住のバイトダンス社員が、中国からのアクセスを許可する「バックドア」を操っていて、中国在住のエンジニアがアメリカ人の個人情報にアクセスしているという密告もあった。

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中国共産党も報復でアメリカ企業に攻撃を行うか?

TikTokは「疑惑のありすぎる」アプリである。ジョー・バイデン大統領は、この法案が下院・上院で可決されたら「法案に署名する」と述べている。

しかし、ここで現在バイデン大統領と激しく争っている前大統領ドナルド・トランプが反対意見を出している。

「TikTokには良いところもあれば悪いところもたくさんある。新しい法律によってフェイスブックがさらに大きくなる可能性は好まない」

ドナルド・トランプも大統領の任期中にTikTokを規制するように動いていた人物のひとりだったが、今はジョー・バイデンと対抗しているので「バイデンが賛成しているものはみんな反対」の心境になっているようにも見える。

反対しているといえば、アメリカ最大の人権擁護組織「アメリカ自由人権協会」もこのTikTok禁止法案には激しく反対している。

「下院は、米国でTikTokを事実上禁止する法案を可決した。これは、コミュニケーションと情報の入手に毎日このプラットフォームを利用する何百万ものアメリカ人の言論の自由の権利を侵害するものだ」

ユーザーの激しい反発や、人権団体の反発、さらには大統領選挙に絡んだ思惑まであって、TikTok反対法案のゆくえがどうなるのかは不透明だ。議員が法案可決に動いても、世論の反発がかなり大きなものになれば紛糾する可能性もある。

懸念事項がもうひとつあるとすれば、もしこのTikTok禁止法案にバイデン大統領が可決するところまでいったら、中国共産党も報復でアメリカ企業に攻撃を行うこともありえることだ。少なくとも中国共産党が何もしないとは考えられない。何らかの反撃は100%ある。

果たして、この法案のゆくえがどうなるのか、推移を見守っていきたい。

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