2018年9月6日、北海道胆振地方中東部を震源としてマグニチュード6.7の地震が起きて、広い範囲で停電が起きた。
その中でキャッシュレスを進めていた人は何もできない状態になったので「ほら見ろ、キャッシュレスよりも現金の方がいい」としたり顔で言う人もいた。
しかし、紙幣も災害時には水に浸かって見失ったり、ドロにまみれたり、家ごと流されたり、燃えて灰になったり、誰かに盗られたり、落として失くしたり、そもそも手持ちのカネが足りなかったりする。必ずしも紙幣の方が優れているわけではない。
災害時にはキャッシュレス派だろうが現金派だろうが、共に苦労するのは当然のことである。「停電でキャッシュレス派が苦しんだ」という点でキャッシュレスの流れを批判するのは間違っている。
災害時に水道が止まったから「水道派は駄目だ、井戸の方がいい」というのが暴論であり、電気が止まったから「電気派は駄目だ、焚き火の方がいい」というのが暴論であり、携帯電話が使えなくなったから「携帯電話派は駄目だ、伝書鳩の方がいい」というのが暴論であるのと同じだ。
災害でキャッシュレス派が買い物ができなくなったからキャッシュレスの流れを否定するというのは、かなり浅はかで愚かな考えでもある。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
「紙幣や小銭」という古いスタイルに固執するな
日本人が「紙幣や小銭」という古いスタイルにこだわり続けると、日本そのものが時代に取り残されて衰退するという状況を分かっていない人が多すぎる。
今、全世界でIT技術と金融を融合した「フィンテック」が爆発的な流れになっており、特に決済部分にイノベーションを起こしている。
このフィンテックは言うまでもないが、すべてキャッシュレスを前提として考えられている。「いかに素早く、いかに低コストに、いかに正確に決済するか」がフィンテックの目的なのである。
キャッシュレスはいくつもの方式や手法が林立している。カード式のものもあれば、ICチップ式のものもあれば、QRコード式のものもあれば、いずれかを併用したものもある。
カード式のものも多様で、従来のクレジットカードやデビットカードによる決済もあれば、交通系カード(Suica、PASMO等)のものもあれば、プリペイドカード(楽天Edy、WAON、nanaco、au WALLET)のものもある。
なぜ、これほどまで決済の手段が多様化したのかというと、キャッシュレスという分野で一気にイノベーションが爆発して、それぞれが最も良いキャッシュレスを模索しているからであると言える。
キャッシュレスとひとことで言っても、「どのキャッシュレス」が最終的に膾炙するのかはまだ未知数なのである。
かく言う私自身も、「スマートフォンやアップルウォッチで決済するもの、交通系カードを使うもの、プリペイドカードを使うもの」の3つをすべて併用している。
カードは何枚も持ち歩かなければならない。そのため、最も優れていると個人的に思っているのは、ICチップ式(スマートフォンやアップルウォッチで決済するキャッシュレス)であると考えているのだが、それが決定打になるのかどうかは今のところ分からない。
分かっているのは、紙幣や小銭のような物品によってやり取りされる原始的な決済にイノベーションが起きていて、いずれ時代はキャッシュレスになるということだ。なぜなら、キャッシュレスは「コストがかからないから」である。
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もはや、銀行は負担増に耐えきれなくなっている
キャッシュレスに背を向けて紙幣や小銭による決済にこだわることの危険性は、日本の銀行に「コストを負担させ続けて疲弊させる」ことにある。
紙幣や小銭というアナログは、それを数える人員と1円まで合わせる時間的な手間が莫大にかかる。さらに、紙幣や小銭を保管し、管理する設備的な費用、保全の費用もかかる。
その上、顧客が現金を出し入れするために必要なATMも一台数百万のコストがかかり、その維持やメンテナンスや修繕にかかる費用も馬鹿にならない。
銀行はこうした費用を預金や融資で穴埋めしてきたのだが、低金利が続いて、もはや費用の穴埋めも難しくなってしまった。
日本で銀行の経営が傾き出している理由はここにある。日本人があまりにも紙幣や小銭にこだわり続けるので、銀行は負担増に耐えきれなくなっているのである。
だから銀行はリストラに走り、ATMを減らしている。(ダークネス:想像以上の環境の悪化で苦しむ日本の銀行は生き残れるか?)
最近、スルガ銀行が不動産取引で不正融資を繰り返していた事件があった。
儲けるためにロクな精査もしないまま「シェアハウス」と呼ばれる賃貸物件にどんどんカネを流して、シェアハウス運営会社の経営が行き詰まると一気に危機に陥ったのがスルガ銀行だった。
高収益を得るためにスルガ銀行のトップは過重な営業目標を社員に課して、社員はノルマを達成するために危険な貸し手や物件にも片っ端から融資した。融資するために、書類の偽装さえもしていた。そして、それを上層部が黙認していた。
これは、すでに儲からなくなった銀行が、起死回生のために思い切りリスクを取った姿だった。
この暴走の裏側には「紙幣や小銭というアナログ」にがんじがらめになってコストばかりがかかって苦しむ銀行の実態があることに気づかなければならない。
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欧米の金融機関が日本人のカネを集め、支配する?
スルガ銀行のように開き直って暴走するか、それとも他の地方銀行のように座して死を待つか。そこまで追い込まれているのが今の銀行だ。
日本人があまりにも紙幣や小銭に執着するために、銀行はコストの削減ができない。そんな中で、異業種が次々と「フィンテック」の分野に挑戦して、おいしい決済手数料の部分をかっさらっていく。
銀行は一番コストのかかる部分を押し付けられて、身動きできなくなってしまっているのだ。だから、現状が何も変わらないのであれば、日本の銀行はどんどん凋落してしまう。
そこにフィンテックによる決済で身軽になり、ノウハウを蓄えた欧米の企業が乗り込んできたらどうなるのか。
言うまでもないが、日本の銀行はあっという間に駆逐されていき、欧米の金融機関が日本人のカネを集め、支配することになっていく。
ハイテク分野では、日本の家電メーカーは一人残らずマイクロソフトのウィンドウズで最も儲かる根幹部分を独占された。最近では、アップルやグーグルのスマートフォンでもソフトやハードの儲かる部分を持っていかれた。
スマートフォンが世界を制するのが確実になっても、日本人は昔ながらの折りたたみ携帯電話にこだわって市場をガラパゴス化させて、結局はスマートフォンに席巻されて日本の家電メーカーは総崩れと化したのを覚えている人もいるはずだ。
出版の世界でも、非効率な世界に安住していた日本の出版業界は、取次も書店もすべてアマゾンに利益をかっさらわれて、もはや見る影もない姿になったではないか。
それと同じことが、今度は決済システムを突破口にして外国の企業が「最も儲かるところ」を独占していき、日本の金融企業を駆逐することになっていくのだ。
キャッシュレスにうまく乗れない日本人は、それゆえに日本企業を凋落させて、ひいては日本そのものを凋落させてしまう。
日本人よ。キャッシュレスのイノベーションが世界を変えていく中で日本を助けたければ、自らキャッシュレスに飛び込んでいくしかないのだ。
「停電が起きたら何もできないキャッシュレスよりも現金の方がいい」みたいな寝言を言っていたら終わりだ。日本人の現金へのこだわりが日本の銀行を凋落させ、日本を金融植民地にさせる。(written by 鈴木傾城)
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日本人よ。キャッシュレスのイノベーションが世界を変えていく中で日本を助けたければ、自らキャッシュレスに飛び込んでいくしかないのだ。「停電が起きたら何もできないキャッシュレスよりも現金の方がいい」みたいな寝言を言っていたら終わりだ。
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キャッシュレスにうまく乗れない日本人は、それゆえに日本の銀行を凋落させて、ひいては日本そのものを凋落させしまう。日本人よ。キャッシュレスのイノベーションが世界を変えていく中で日本を助けたければ、日本のために自らキャッシュレスに飛び込んでいくしかない。https://t.co/QsWT3bJI95
— 鈴木傾城 (@keiseisuzuki) 2018年9月26日