SNS企業はいくら中立であると言っても、基本的にはリベラル側の立場に共鳴しやすく、保守の立場を検閲しやすい状況にある。今、こうした状況を変えるために、最初から中立を捨てて「保守の立場」を謳ったSNSもアメリカでは登場している。それがParler(パーラー)である。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
保守の発言は監視され、削除されやすい傾向になる
アメリカのほぼすべてのSNS企業はリベラルである。フェイスブック社もツイッター社も同様だ。そのため、これらの企業が人々の発言を検閲するとすれば、当然のことながらリベラルな発言は擁護的になり、保守的な発言には批判的になる。
もちろん、企業は「偏ってはマズい」という意識がある。偏向すれば一方のユーザーを締め出すことになるからだ。そのため、苦心惨憺しながら中立を保とうとするのだが、リベラルに共鳴しやすい創業者や社風があって、リベラルからの苦情が来れば、自ずとリベラルに利する動きをする。
つまり、保守の発言は監視され、削除されやすい傾向になる。
トランプ大統領は明確に「保守」を標榜する大統領なので、当然のことながら保守的な発言をするのだが、それはいちいちリベラルの反発を食らい、問題視される。
リベラル側はフェイスブック社やツイッター社に「何とかしろ」と突き上げる。対応しないのであれば企業そのものが攻撃されるので、フェイスブック社やツイッター社は「本当は関知したくない」と思いつつ、トランプ大統領に警告を与えたりする。
すると今度はトランプ大統領が激怒して、「SNSが大統領の発言に対して検閲した」と糾弾し、問題視される。「こんなことをするのならSNSを規制する」とトランプ大統領は述べ、場合によっては規制されるかもしれない。
フェイスブック社もツイッター社は今、中立の立場など保つことはできないと思い知っているところではないか。
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「略奪が始まると、銃撃も始まる」の衝撃
ドナルド・トランプ大統領は、「抗議デモは許容するが略奪は許容しない」と明言している。そして、もし略奪が始まれば銃撃も始まると書いた。
“when the looting starts, the shooting starts.”
https://twitter.com/realDonaldTrump/status/1266231100780744704
(略奪が始まると、銃撃も始まる)
ツイッターに書かれたこの発言は大問題と化した。「アメリカ大統領は国民を銃撃するのか?」というわけだ。これによってツイッター社は「暴力の賛美がある」という警告文を付けて読める人は読めるようにしたのだが、これによって何が起きたのか。
リベラル派は「なぜ、こんな暴力的な発言を削除しないのか」とツイッター社を突き上げた。一方のトランプ陣営は「なぜ、ツイッター社は大統領の発言を検閲する権限があるのか」と突き上げた。
ツイッター社はどちら側からも突き上げられて窮地に落ちた。
トランプ大統領はこの「略奪が始まると、銃撃も始まる」という文章を、同時にフェイスブックにも上げていた。
https://ja-jp.facebook.com/DonaldTrump/posts/i-cant-stand-back-watch-this-happen-to-a-great-american-city-minneapolis-a-total/10164767134275725/
こちらも同様のことが起こった。フェイスブック社は「中立の立場からこの発言をそのままにする」という措置をCEO(最高経営責任者)のマーク・ザッカーバーグが取った。ザッカーバーグはこのように述べている。
『個人的には大統領の言葉に「生理的な嫌悪感」を感じたものの、フェイスブックとしてはできる限り表現の自由を確保するための努力もすべきだ』
しかし、従業員は激しくマーク・ザッカーバーグを批判し、重要幹部が辞職し、オンラインデモが引き起こされ、公民権団体からも批判され、さらにいくつもの企業から広告を引き上げられるという「報復」をリベラル側から受けることになった。
マーク・ザッカーバーグは折れて、「今後は国家の武力行使にまつわる議論や脅威に関連した投稿への規制を見直す」と発表せざるを得なかった。
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対立と暴力と誹謗中傷に満ち溢れた無法地帯
SNSは全世界をつなげた画期的なシステムなのだが、全世界をつなげたことによって主義主張による対立、民族による対立、立場の相違による対立が果てしなく広がる荒涼とした世界を作り出すことになった。
さらにSNSは個人の主義主張や思考傾向の可視化を発言やリツイートで露わにしていくので、個人は気が付けば自分の主義主張や思考傾向に対する猛烈な批判や中傷罵倒を浴びる場に自分が立っていることに気づいたのだった。
SNSで発言するすべての個人は「お前はどっちの側なのか?」を明らかにするように迫られるのである。
「中立である」と言えばこの対立から逃れられるのかと言えばまったくそうではなく、中立であればあるほど「下手したら、どちら側からも立場をはっきりさせろ」と攻撃されることになる。
私自身は「ネットは愛と平和に満ち溢れたユートピアの世界」など最初から思ったことは1ミリもなく、常にそこは「対立と暴力と誹謗中傷に満ち溢れた無法地帯」であるという認識を持ち続けてきた。
いくら「愛」だの「平和」だの言ったところで、人間は心の奥底に「憎悪・嫉妬・破壊願望・暴力願望」と言ったドロドロとした感情を誰しもが持っている。個人が発言するようになったら、それが表出するのは自然なことではないか。
実際、インターネットは時代を経れば経るほど、対立と暴力が溢れる暴力地帯へと変化しているのが見て取れるはずだ。だから、インターネットをしてSNSをしていると、誰もが対立と暴力と誹謗中傷に巻き込まれていくし、それを避けられない。
私たちは対立と暴力と誹謗中傷が可視化される世界にアダプト(適応)しなければならないのであり、それが「今の時代を生きる」ということなのである。
そのあたりの事情は、最近になってやっと理解されるようになってきている。対立と暴力と誹謗中傷が渦巻く世界で生きていける人がこれからの時代で生き残る人であるし、生き残れない人は淘汰される時代に入っている。
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アメリカの保守派たちの牙城が育ちつつある
ところで、SNS企業はいくら中立であると言っても、基本的にはリベラル側の立場に共鳴しやすく、保守の立場を検閲しやすい状況にある。今、こうした状況を変えるために、最初から中立を捨てて「保守の立場」を謳ったSNSもアメリカでは登場している。
これについて、『ビジネス・インサイダー』は興味深い記事を上げている。『トランプ陣営がツイッターやフェイスブックを放棄?…支持者とつながる他の方法を模索』という記事がそれだ。
(https://www.businessinsider.jp/post-215418)
トランプ大統領の言論は、ツイッター社やフェイスブック社では「検閲」されてしまうので、トランプ陣営は「第三のプラットフォーム」を検討しているというのだ。そのひとつが以下のものである。
Parler(パーラー)
https://parler.com/
『ビジネス・インサイダー』によるとこのParler(パーラー)というシステムは表現の自由を強調したプラットフォームで、『Parlerは、過激な支持者や、フェイスブックやツイッターから追い出された極右の人物を惹きつけている』というのだ。
まだ日本語化されていないこのプラットフォームは2018年8月に設立されたばかりの若いプラットフォームで、まだ2年ほどしか経っていない。
ツイッターを意識しているので使い方やシステムの雰囲気はだいたいツイッターと同じだ。もちろん、「いいね!」「リツイート」「ダイレクトメッセージ」等の機能もある。投稿文字は1000文字、画像も動画も添付できる。
Parler(パーラー)は1年目で右派活動家、右派政治家が大量にアカウントを作成するプラットフォームとなり、そこからさらに「あまりにも過激過ぎてツイッター社からアカウントを停止された右派」も集まるようになって、いまやアメリカの保守派たちの牙城となりつつあるのは興味深い。
このシステムが日本語化されれば日本の保守派もParler(パーラー)に集結するのかもしれない。そうなれば興味深いと思いつつ、状況を見守っているところだ。