これから非人道的なまでに弱者が切り捨てられる社会がやってくる理由とは?

これから非人道的なまでに弱者が切り捨てられる社会がやってくる理由とは?

弱者がより苦しむ社会となっている。社会環境は急激に悪化しており、誰もが生きにくい社会と化している。これはコロナ禍が収束したら解決するわけではない。これからもずっと弱者が切り捨てられる傾向が続いていく。場合によっては、非人道的なまでに弱者が切り捨てられる社会がやってくる。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

いずれは立ちゆかなくなっていく

日本政府は2019年に消費税を引き上げたのだが、その翌年2020年にはコロナ禍の直撃を受けたにも関わらず消費税を絶対に引き下げようとしなかった。2021年3月5日も、菅義偉首相は記者会ケインで「消費税に引き下げについては考えていない」と断言していた。

これは「景気が低迷しようが困窮者が飢え死にしようが、とにかく何があっても国民から税金を取る」という決意に他ならない。

最近はちらほらと「コロナ増税が行われるのではないか」とも「コロナ復興税として消費税15%になるのではないか」とも噂されるようになっている。

将来的に確約されているのは、税金は高くなっていき、福祉は削られていくという現実である。すでに年金の削減は微細ながらも少しずつ行われているし、医療の自己負担も負担額が上昇している。

しかし日本政府は、少子高齢化という社会を自滅させる要因を真剣に解決しようとしないので、この状況を好転させることができない。

問題を放置して対症療法をしていても、一時的にはなんとかなっても遅かれ早かれ問題はさらに深刻化してぶり返す。アリ地獄に落ちたアリのように、必死にもがいても地獄に落ちていくのを止められない状況になっている。

日本の人口は約1億2000万人だが、総務省の2020年9月15日の統計によると、高齢者人口は約3617万人、総人口に占める割合は28.7%にまで上昇している。この割合は過去最多になっているのだが、もちろんこれで止まったわけではない。もっと高齢者人口は増えて総人口に占める割合は増えていく。

高齢者が働くと言っても限度があるわけで、彼らの多くは年金生活に入り、年金がもらえない高齢者は生活保護に頼って生活することになる。生活保護受給者がうなぎ登りに増えているのも、高齢者が増えているからでもある。そのため、生活保護という制度も、このままではいずれは立ちゆかなくなっていく。

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日本での状況は良くなるよりも悪くなる方向性にある

今の日本社会の人口構成や、政治情勢や、社会情勢を見ると、楽観視できるものは何もない。状況は良くなるよりも悪くなる方向性にあるのは、人口動態の方向性にそのまま直線を引いたら誰でも見えてくるはずだ。国連は「日本人は2100年には8300万人にまで減少する」と推計を出している。

ただ人口が減るのではない。高齢化して人口が減るのだ。高齢化が進めば進むほど日本という国の活力は失われて仕事もイノベーションも消えていく。しかし、高齢化と人口減に歯止めをかけるものは何もない。

日本企業が弱体化していく中で、日本特有の雇用制度であった年功序列も終身雇用も成り立たなくなった。これを加速させたのは2000年代から行われた非正規雇用者の拡大である。

竹中平蔵が、「正規雇用と言われるものはほとんどクビを切れないんです。クビを切れない社員なんて雇えないですよ、普通」と言って、どんどん非正規雇用者を増やしていった。

竹中平蔵が若者に仕掛けた罠。「1億総非正規」でも金を増やせる人間の思考=鈴木傾城
https://www.mag2.com/p/money/1011535

日本企業は正社員を非正規雇用者に置き換え、従業員を使い捨てにするROE経営の企業が普通になっている。非正規雇用者は2018年の時点で2165万人となっている。非正規雇用者比率も38.3%である。つまり、働いている人の約4割は、もう非正規雇用者なのである。

「年々、生きにくい社会になっているのではないか」と日本人が思うのは錯覚ではない。

そこにグローバル社会に襲いかかったのがコロナによるパンデミックである。これによって多くの労働者がリストラされたが、特に非正規雇用者は景気の調整弁として真っ先に切り捨てられていった。

働く人の約4割は、雇い止めに遭ったり、雇われなかったり、いつクビにされるのかと不安な気持ちにまみれながら生きている。

弱者がより苦しむ社会となっている。社会環境は急激に悪化しており、誰もが生きにくい社会と化している。これはコロナ禍が収束したら解決するわけではない。これからもずっと弱者が切り捨てられる傾向が続いていく。

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社会が、国家が、企業が、個人が、弱者を切り捨てる時代に

これから非人道的なまでに弱者が切り捨てられる社会がやってくる理由は、すべてが複合的に絡まって同時並行で襲いかかってくるからだ。

弱者は4つの存在から切り捨てられる。「社会」が弱者を切り捨て、「国家」が社会を切り捨て、「企業」が弱者を切り捨て、「個人」が弱者を切り捨てる。

「社会」にはどの時代にもその時代の空気がある。その空気の中には、弱者を大切にしようとする時代の空気もあれば、弱者を排除しようとする時代の空気もある。

理想主義の社会であれば弱者を大切にするような空気が芽生えるが、競争主義や拝金主義や利己主義の社会であれば弱者よりも自分が大切だと思って、他人を顧みない空気となる。

現代社会は、資本主義が苛烈になるにつれて「金こそすべて」みたいな主義主張をするような浅ましい人間が増えて、弱者を負け犬と嘲笑い、踏みつけにするような社会となっている。弱者は社会から見捨てられた。

「国家」も財政赤字が膨らむと、福祉を削減するようになって弱者を切り捨てていく。「企業」もグローバル化による激甚な競争によってコスト削減を常に強いられ、弱者を見捨てて切り捨てていく。

そして「個人」も親族や家族という絆も切れやすくなり、家族の中の弱者を支えたり、面倒を見たりする精神的な余裕も経済的な余裕も失っていく。

高度成長期に何とか経済的に余裕を持った両親はニートや引きこもりの子供を養う余裕があるが、一歩間違えれば生活保護を受けなければならないような両親は、もはやニートや引きこもりの子供を養う余裕もない。

自分たちが弱者になるのだから、他の弱者の面倒を見ることができなくなってしまうのである。みんなが弱者になるので、誰も助けられない。

かくして弱者は、社会にも国家にも企業にも個人にも見捨てられて、いったんどん底に転がり落ちたら誰からの救済も受けられなくなる。

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このような現象が進めば弱者は切り捨てられていく

現在は生きにくい社会となっている。事あればすぐに弱者が切り捨てられることになるのだが、どのような現象が進めば切り捨てられていくのか。以下のような現象が進めば、弱者は容赦なく切り捨てられていく。

(1)効率化・合理化が進むと、弱者が切り捨てられる。
(2)高度化が進むと、弱者が切り捨てられる。
(3)分業化が進むと、弱者が切り捨てられる。
(4)即戦力が求められると、弱者が切り捨てられる。
(5)専門家が進むと、弱者が切り捨てられる。
(6)拝金主義が進むと、弱者が切り捨てられる。
(7)利己主義が進むと、弱者が切り捨てられる。
(8)競争主義が進むと、弱者が切り捨てられる。
(9)社会が貧困化すると、弱者が切り捨てられる。
(10)社会の階級化すると、弱者が切り捨てられる。

文明の「進化」は止まらないが、進化が進むというのは文明がどんどん複雑化するということである。複雑化が進むということは、複雑な社会に対応できるだけの知力・能力・資力が必要になっていくということだ。そして、そのレベルは年々上がっていくことになる。

なぜ、現代社会が莫大な弱者を生み出しているのかというと、こうした側面が複合的に進んでどれも止めることができないからだ。

社会が要求するレベルに達していないと、選択肢としては低賃金の労働しか残されていない。しかし、そんな低賃金の労働でさえも、今後はロボットや人工知能が奪っていく。

ロボットや人工知能は自分の仕事を奪う存在であると実感している勤め人はまだほとんどいない。これは2000年代のグローバル化がなし崩しに進んでいた頃、自分の賃金が低下したり、リストラされていくと実感しなかったのと同じだ。

気づいた時はすでに手遅れになってしまっているのである。

真面目に働いていても、ふとしたきっかけで弱者になっていく恐ろしい時代が待っている。そして、弱者に落ちると這い上がるのは容易なことではない。非人道的なまでに弱者が切り捨てられる時代がやってくる。

書籍
『ボトム・オブ・ジャパン 日本のどん底(鈴木 傾城)』

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