過大な借金を抱えている人間は、時代が不安定になった瞬間に誰よりも早く死ぬ

過大な借金を抱えている人間は、時代が不安定になった瞬間に誰よりも早く死ぬ

見込み違いが一度でも起きれば破産する危機があるのに、それに賭けるというのはリスク管理がなっていないと言われても仕方がない。まさにハイリスク・ハイリターンの典型だ。アルケゴスのビル・フアンが陥っている危機はスケールは凄まじく大きいのだが、結局はハイリスクで吹っ飛んだという話である。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

世の中を動かしている変数は1つや2つではない

アルケゴス・キャピタル・マネジメントを運用する著名なトレーダー、ビル・フアンが投資に失敗してレバレッジを賭けていた資産が強制決済の憂き目に遭っている。その額は2兆2000億円とも言われている。

そのせいで、ここに資金を貸し付けていたクレディ・スイスや野村證券子会社などが莫大な損害を被ることになった。この事件は、額は巨大だが珍しい話ではない。むしろ、よくある話だ。

相場はいつでも予期せぬ事態が襲いかかって変転するし、もう終わりだと思っていたら逆にするすると上昇したりする。世の中を動かしている変数は1つや2つではないのだから、それをすべて読み切ることができる人はいない。

コロナにしても、2020年12月に中国で問題になった時にそれが全世界を阿鼻叫喚の地獄に突き落とすなど、その時点で分かっていた人は一人もいなかった。だから、私たちは「何が起きるのか分からない」という前提で、見込みが外れた時のダメージも計算して生きる必要がある。

起業家や投資家の息の根を止めるのは、事業の失敗や見込み違いではない。失敗は誰でもあるし、それはいつでも起こり得る。人生で一度も失敗したことがないという人がいたら、それは「何も挑戦しなかった人」であると言える。

起業家や投資家の息の根を止めるのは「借金」である。失敗や見込み違いは借金によってレバレッジがかかり、傷を深く、大きく、致命的にしてしまうのだ。

たとえば株式投資をしていて持ち株が50%暴落するような日が来たとする。株式市場はいつでも暴落がやって来る場所であり、長期に株式を保有していたら、投資家は暴落を必ず経験する。

しかし、保有する株式が自己資金であれば、市場が大暴落していようが何ら問題はない。売らないで保有しておけばいいし、誰かに売れと言われることもない。

しかし、株式を信用取引で買っていた投機家は、委託保証金から20%から30%の損失が出た時点で自己資金で補填しなければならない。これを「追証(おいしょう)」と呼ぶ。追証が払えなければどうなるのか。詰む。

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「返せなくなったら人生の終わり」をなぞる人

信用取引をやっている投機家が想定以上の見込み違いに巻き込まれると追証が発生し、それが払えなければ証券会社が強制決済を行う。さらに、それ以上の損失が出た場合は、証券会社への債務が生じることになる。

通常、信用取引を行っている投機家は自己資金以上の取引を行うために信用取引を使っていることが多い。そのため、自分の想定を越える見込み違いが発生すると、その瞬間に危機に陥ってしまうのである。

返せない借金は、それをどのように処理をしようとそれは自分の人生の破綻に直結してもおかしくない。信用取引が危険だというのは、そうした危機にいつでも直面する可能性があるからである。

見込み違いが一度でも起きれば破産する危機があるのに、それに賭けるというのはリスク管理がなっていないと言われても仕方がない。まさにハイリスク・ハイリターンの典型だ。

アルケゴスのビル・フアンが陥っている危機はスケールは凄まじく大きいのだが、結局はハイリスクで吹っ飛んだという話である。

過大な借金を抱えて返せなくなったら人生の終わり。そんなことは誰でも知っていると多くの人は高をくくるのだが、私自身は日本人がそれをしっかりと認識できているとはまったく思っていない。

なぜなら多くの日本人は持ち家に過大な幻想を抱き、「住宅ローン」という大きな借金を抱えて「返せなくなったら人生の終わり」をなぞっているからだ。

すでに日本の不動産は大都市の一部のロケーション以外は価格が上昇するのは見込まれていない。少子高齢化が解決できない限り、不動産は資産になり得ないものであると言われている。

にも関わらず新築建物は供給され続け、不動産屋は資産にならないものを資産のように装ってサラリーマンに売りつけたり、さらには不動産投資を誘ったりしているのである。

不動産投資は、それほど簡単なものではない。「不動産投資をしたらいつでも儲かる」「サラリーマン大家で大金持ちになれる」と不動産関係者は煽っており、成功例がことさら強調されている。しかし、その裏で不動産投資に乗り出して失敗した人たちの例はあまり語られていない。

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営業による「はめ込み」が行われるのが投資物件

アパート経営やら不動産経営がそんなに着実で優秀なリターンを稼げるのであれば、なぜ不動産屋はそのアパートや不動産を他人に売りつけるのか。もし、ある不動産物件が脅威のリターンを稼げ出せるのであれば、企業はその物件を他人に売るよりも自分たちで確保すると考える方が自然だ。

企業はボランティアで生きているのではないのだから、着実に儲かるのであれば自分たちで独り占めして黙って儲ける。間違えても見も知らぬ人間に売ったりしない。

つまり不動産投資の物件というのは、良い物件は最初から企業が確保して、どうでもいい物件か問題が隠されている物件を売りつけているということになる。要するに、営業による「はめ込み」が行われるのだ。

不動産は安い買い物ではないので、だからこそ企業はセミナーなるものを開いて不動産投資を賞賛し、買わないと損すると脅し、なだめ、すかし、洗脳して買わせるのである。

不動産投資は絶対に失敗するわけではない。人は誰でもどこかの家に住まなければならないわけで、その人の生活に合った場所と価格であれば、そこに住みたがる人もいる。それをうまくつかめば地道に儲けることが可能になる。

問題はそうでなかった場合、撤退できるかどうかである。多くの人は不動産を買う際は借金をして買うことになるのだが、不動産というのは安い買い物ではない。人々は、過大な借金を抱えて購入する。

本来は、その借金は賃貸で入った収入で返済することになるのだが、だからいったん躓くと「過大な借金を抱えて、返せなくなったら人生の終わり」になってしまうのである。

賃貸収入が入ってこないということはあるのか。もちろんある。そのリスクがどんどん高まっている。中国発コロナウイルスによって底辺の人々が急激に貧困化していることもある。

しかしそれ以前に、必要以上に物件が供給されているのに、今後は少子高齢化で人が減るのだから、全体的に見るとかなり厳しくなるという状況もある。

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ひとつでも問題が発生するとそれが致命傷になる

ロケーションが悪かったり、家賃が高かったりすると、空室が何ヶ月も続くことがある。空室が続くということはその月の借金返済は自己資金で行わなければならないということになる。それが何ヶ月も続くとその負担は大きい。

誰か人を入れても、その人がきちんと家賃を入れてくれるのかどうかも最近は分からなくなっている。

現在はコロナ禍によって一流企業に勤めている人であってもリストラされ、若年層や女性は非正規雇用で、高齢者は足りない年金でかろうじて生きている時代なのである。滞納リスクは高まっている。

家賃を下げれば人が入るのかもしれないが、そうすると投資リターンが下がる上に滞納リスクはさらに上がる。家賃が低いと、身分の不安定な人たちが入り込んでくるからだ。

孤独死、孤立死も増えている。さらに最近では物件の情報がインターネットで知ることができるようになり、今まで秘されて表に絶対に出てこなかったはずの「事故物件」の情報までもが流通するようになり、いくら不動産屋や大家が隠そうとしても隠しきれなくなった。

それに加えて、最近の日本の建築物はコスト削減と合理化のために見えないところに手抜きや瑕疵があることも珍しくなくなっている。抱えた借金の長さよりも建物が長持ちしない。そのため、ある時点からメンテナンスや修理で莫大な金が飛んでいくことにもなりかねない。

不動産投資は意外にリスクが高いのだが、すべて自己資金であればこうしたリスクはある程度は吸収できるかもしれない。借金でなければ空室も滞納も対処できるのである。しかし、多くの場合は不動産投資は莫大な借金で成り立っている。

だから、時代が不安定になればなるほど、1つでも問題が発生するとそれが致命傷になってしまう可能性が高い。問題は不動産投資にあるのではなく、挽回できないほどの「過大な借金」の方にある。分相応な「過大な借金」があると、それで何をしようともすべてが大きなリスクと化す。

平時はリスクが顕在化せず、何もかもうまくいっているように見える。しかし、何か異常事態が勃発すると真っ先に死ぬのはリスクを過大に取っている人だ。過大な借金を抱えている人間は、時代が不安定になった瞬間に誰よりも早く死ぬということだ。

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