ルサンチマンの爆発。SNSで成功を自慢をしている人間たちは気をつけた方がいい

ルサンチマンの爆発。SNSで成功を自慢をしている人間たちは気をつけた方がいい

現代の日本の貧困層は、政府からも企業からも学校からも家庭からも見捨てられている。社会全体が彼らを切り捨てていくのだから、次第にアンダークラス層が鬱屈した精神状態に追い込まれていく。その結果、何が起きるのかは火を見るよりも明らかである。憎悪の爆発だ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

激しい憎悪を持って、襲撃に走るという未来が待つ

日本は2000年代以後から正規雇用者と非正規雇用者との「分離」が進んで、ここで経済格差が広がった。そして、少子高齢化が進むにつれて貯金もあって年金ももらえる高齢者と、貯金もなく税金を取られて高齢者を養う若年層との世代間格差も目立つようになってきた。

さらにインターネットやスマートフォンとSNSの普及によって弱肉強食の資本主義の中での成功者の生活や言動も可視化されるようになった。

成功者は自らの成功を上から目線で偉そうに語り、そしてまだ成功していない人間や成功できなかった人間を思いきり嘲笑する。

その結果、こうした格差の広がりと格差の可視化は、「何も持たない層」に制御できない憤怒を引き起こすようになる。

小田急線切りつけ事件の犯人である対馬悠介は、職を転々として36歳にして生活保護、万引きして逮捕されるような「負け犬」だったが、電車内での無差別切りつけの動機は以下のものだった。

「俺はクソみたいな人生を送っているのに、幸せそうな人を見ると殺したくなる」

「成功していないのであれば、成功すればいいのではないか」というのは、成功した人間が安全地帯から見下ろして言っている言葉である。誰しもが成功できるわけではないし、さらに誰しもが経済的な成功を人生の目的としていない。

誰でも経済的成功ができるのであれば、1%の成功者と99%のアンダークラス層という格差社会にならないのだ。

原始時代は体力が問われ、中世は宗教心が問われる時代だったが、現代では経済へのリテラシーが問われる時代になっている。たまたま現代のニーズと合致した人間が運良く成功したら賛美されるというのが現代社会である。

その「たまたま成功した一部の成功者」がSNSで得意げになって自分たちの成功ぶりをひけひらかしていたらどうなるのか。

いずれは「何も持たない層」が彼らに対して激しい憎悪を持って、襲撃に走るという未来は誰でも予測できるはずだ。(マネーボイス:成金が貧困層を煽れるのは今だけ、やがて日本でも「誘拐ビジネス」が花開く=鈴木傾城

【金融・経済・投資】鈴木傾城が発行する「ダークネス・メルマガ編」はこちら(初月無料)

政府からも企業からも見捨てられたアンダークラス層

政府はこうした格差の広がりを是正するつもりはない。なぜ、それが分かるのか。税制を見れば一目瞭然だ。

政府は富裕層に減税して、アンダークラス層に増税しているからだ。

消費税はアンダークラス層から広く毟り取る税金なのだが、政府はアンダークラス層の負担を下げるために消費税を引き下げるどころか、逆にアクセルを踏んで引き上げるという方策に出た。にも関わらず、企業の法人税は引き下げられ続けている。

政府は大企業を優遇しているのだが、この大企業は一部の富裕層が株式という形で保有しており、それによって大きな恩恵を受けている。

企業が内部留保を膨らませれば膨らませるほど、企業価値は上がり、それによって最終的には大株主がより資産を増やす仕組みになっている。

政府が税制によって富裕層有利、アンダークラス層不利にしているのであれば、政府は経済格差を解決する気持ちはまるでないということが分かるはずだ。

つまり、どんどん広がっていく経済格差について、アンダークラス層は政府から助けを得られることはない。政府は富裕層に尻尾を振っており、アンダークラス層を足蹴にしているのである。

もしかしたら、政府は企業を助けることによってトリクルダウンの効果を狙っていたのかもしれない。「企業が儲かれば利益を従業員に還元して共に豊かになる」というのがトリクルダウンである。

しかし、企業は儲かったら内部留保を増やし、さらに徹底的なコスト削減によって従業員をリストラして「儲けはすべて自分のもの」にするのが現実だ。「利益を従業員に還元」など、机上の空論に過ぎなかったのである。

結果的に、アンダークラス層は政府からも企業からも見捨てられたということだ。

【ここでしか読めない!】『鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』のバックナンバーの購入はこちらから。

アンダークラス層が鬱屈した精神状態に追い込まれていく

今の社会は学校もまた役に立たない。当然だ。学校というのは、企業が喜ぶ無個性で一定品質の規格品的な人間を作り出す「規格人間製造所」だった。企業の歯車になるために相応しい教育がそこで為されていた。

日本の学生は「規格人間」になることに対して、今まではそれほど疑問を持たなかった。なぜなら、規格人間になって企業に入ったら、企業は終身雇用でずっと面倒を見てくれたからである。

要するに、自我を殺して会社に滅私奉公していたら「メシの心配はなかった」から、企業の歯車みたいな存在になることを学生は容認していたのだ。それは「つまらない」ことなのだが「安定していた」のだ。

ところが今の社会は、どれだけ自分を殺して企業に尽くしても終身雇用で最後まで面倒を見てくれるというわけではなくなっている上に、下手したら極限まで働かされて壊れたら使い捨てされる可能性まで出てきた。

企業が最後まで面倒を見てくれなくなっており、さらに下手に滅私奉公していたら心身が破壊されるほどまで「いいようにこき使われる」のであれば、規格人間になるメリットなどどこにもない。

そうなれば最後の拠り所は家庭だが、家庭もまた個人主義が突き進んだ結果として崩壊寸前になっており、収入の不安定化も重なって結婚自体も減って国民の多くが単身世帯になって孤立化している。

このように考えると、現代の日本の貧困層は、政府からも企業からも学校からも家庭からも見捨てられている存在であるというのが分かるはずだ。

このような「見捨てられた人々」が増えている。さして経済的な活動に関心があるわけでもないのに、社会全体が彼らを切り捨てていくのだから、次第に彼らが鬱屈した精神状態に追い込まれていく。

そこに、成功者がSNSで自らの金満ぶりを誇示して見捨てられたアンダークラス層を煽るのだから、これでアンダークラス層が憤怒の感情を持たないとは思えない。

ダークネスの電子書籍版!『邪悪な世界の落とし穴: 無防備に生きていると社会が仕掛けたワナに落ちる=鈴木傾城』

「暴力のターゲットになりつつある」という現実

小田急線切りつけ事件の対馬悠介は、「自分だけが不幸な人生だ」「殺せなくて悔しかった」「逃げ惑う光景を見て満足した」と述べて、ルサンチマンを晴らしている。

私自身は、何も持たない貧困の中で暮らしている女性が、SNSで金満ぶりを見せびらかしている有名人を、しい口調で罵り続ける光景も見ている。

彼女もまた成功を誇示している人たちを「不快だ、嫌いだ」と言って、最後には「死んでしまえばいい、誰かに殺されればすっとする」と私に言っていた。小田急線切りつけ事件で彼女もまたルサンチマンを晴らしたのかもしれない。

もちろん、誰かが金満ぶりを誇示しているのを見て嬉しい気分になる人は少ないかもしれないが、しょせん赤の他人なのだから誰が何をしようが放っておけばいいだけの話ではある。しかし、彼女の怒りは収まらなかった。

今、このような感情を持つ層が大勢いるのだ。SNSを注意深く見ると、成功者に対して、憎悪を投げつけたり書いたりしている人が大勢いることに気づくはずだ。怒りはくすぶっているのである。

小田急線切りつけ事件は、何も持たない層がいよいよ激しい怒りの感情を持ち、それを隠せなくなっているひとつの証拠でもある。小田急線切りつけ事件の対馬悠介は不特定多数を狙ったが、やがて成功した個人も狙う人間が現れる。

資本主義の成功者は、偉そうな口調、上から目線、金満自慢、SNSでの誇示、持たざるものへの嘲笑を繰り返しているのだから、貧困層もまたそれに呼応して羨望よりも憎悪の感情を持つようになっている。

ある意味、見下した態度から憎悪が生まれるのは当然の帰結だったのだ。そうであれば、何も持たざる層が、成功を見せびらかしている人間に対して「いずれは事件を起こす」と考えるのは別に奇異なことではないはずだ。

SNSで成功を自慢をしている人間たちは気をつけた方がいい。今、まさに「自分たちが暴力のターゲットになりつつある」というのは、確かに実際にやられてみないと気づかないはずだ。

私は社会のどん底《ボトム》の人たちとずっと関わり続けている。だから、彼らの怒りが「そこにある」ということを知っている。マグマのように煮えたぎる憤怒は、次はどのように爆発するのだろうか……。

『ロバート・ライシュ 格差と民主主義 (ロバート・ライシュ)』。その怒りを乗り越えろ 暴走する経済から「かけがえのないもの」を守るたった1つの方法とは

鈴木傾城のDarknessメルマガ編

CTA-IMAGE 有料メルマガ「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」では、投資・経済・金融の話をより深く追求して書いています。弱肉強食の資本主義の中で、自分で自分を助けるための手法を考えていきたい方、鈴木傾城の文章を継続的に触れたい方は、どうぞご登録ください。

一般カテゴリの最新記事