2020年代。世界はグローバル化で統一に向かうのか保守化で分裂に向かうのか?

2020年代。世界はグローバル化で統一に向かうのか保守化で分裂に向かうのか?

かつては国と国での結びつきだったが、やがては周辺国同士がブロック化して、北米ブロック、南米ブロック、アジア・ブロック、ヨーロッパ・ブロックで人々は考えるようになっている。ブロック内で貿易協定を結び合い、国と国の規制を撤廃するのが常態化し、さらには温暖化問題などでそれぞれの国の代表が一堂に介して問題を話し合うようになっている。もう世界は密接につながっていて、ひとつの国家だけで対処できない問題ばかりになった。いずれは、このブロックも統一されて「ワン・ワールド」の世界が生まれ、国が解体されたとしても不思議ではない。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

アメリカでもイギリスでもグローバル化に抵抗する動き

2019年は米中新冷戦が過激にエスカレートした年だったが、これは言ってみればアメリカが中国という国を自由貿易から激しい勢いで断ち切ろうとする動きであった。

中国は自国の企業に補助金を出して世界でシェアを取れるように画策し、自国では外国企業にがんじがらめの法規制で縛ってシェアが取れないようにする等のアンフェアなことをやり続けていた。

さらに中国政府は先進国から知的財産を国が率先して強奪し、途上国から返せないほどの債務を抱えさせて資源や土地を強奪するという経済植民地を進めていった。アメリカはこうした中国の悪逆なやり方に激怒して、中国をグローバル経済から切り離そうとするようになっていったのである。

グローバル化を破壊しかねないドナルド・トランプ大統領はグローバル・メディアから激しく批判され、トランプ大統領を排除しようとする動きも起きている。しかし、こうした状況にトランプ陣営とその支持層も激しく反発し、アメリカ国内は分断状態になっている。

一方でイギリスは、ボリス・ジョンソン首相が2019年12月12日の総選挙に地滑り的な勝利を得たことで、2020年の初頭にブレグジットを果たす予定である。

イギリス国内では「EU」という押しつけられたグローバル化によって移民が大量に流れ込むのを止められないという現状があったのだが、イギリス人の半数はこれを嫌ってブレグジットを支持した。

一方で、絶対にブレグジットを拒絶しようとするグローバル勢力もイギリス国内に存在し、ボリス・ジョンソン首相を激しく攻撃している。

このイギリス国内の対立は、言ってみればグローバル化を極限まで推し進めるか、それとも昔ながらのイギリスを維持するかの対立が裏側にあり、人々に選択を迫っている。

【金融・経済・投資】鈴木傾城が発行する「ダークネス・メルマガ編」はこちら(初月無料)

どちらにも明確に肩入れできないジレンマがある

イギリスだけではない。現在は世界中でグローバル化が推し進められており、どこの国でも「その国の昔からの文化・伝統・生活」は危機に瀕している。

あちこちの国で、多くの移民・難民が大量流入するようになって、その国が長らく培ってきた伝統や生活様式が破壊されるようになっている。グローバリズム(国際主義)とパトリオティズム(愛国主義)の対立が表面化しているのが現在の動きである。

経済も情報もすでにグローバリズムだ。人々はこのグローバリズムに、企業を通して、インターネットを通して、日々の買い物を通して関わっている。

しかし、人々は誰もが自分たちの国の言語や文化や習慣や宗教を守りたいと自然に思う。どこの国の人々も、グローバル化は受け入れつつも、やはり自国の文化を守りたいと考える。

グローバリズムが突き進んで行くと、最終的に人々は文化や伝統や習慣を失う。言語も失うかもしれない。「世界で共通」であることを目指すのがグローバリズムの本質だからだ。

かと言ってグローバル化を拒絶すると、文化や伝統や習慣を守ることができるが、世界から孤立して取り残され、貧困化してしまう。伝統に固執する国家はグローバル社会と相容れないからだ。

グローバリズムとパトリオティズムは、せめぎ合いながら、それぞれの国の中で入り交じって存在している。生活の中にグローバル経済が強固に組み込まれているのだが、生活の中には伝統的文化もまた定着しているので、どちらか一方をばっさりと切り離すことができない。

つまり、一方を取って一方を完全に切り捨てることができない。グローバル経済から完全に鎖国すると窮乏国家と化す。しかし、グローバル化を際限なく受け入れると文化も伝統も共同体も何もかも衰退する。

どちらにも明確に肩入れできない。だから今、人々は苦しんでいる。

【ここでしか読めない!】『鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』のバックナンバーの購入はこちらから。

どちらがいいのか人々は選ぶことができなくなった

この2つの価値感の対立は、どちらにも肩入れできないがゆえに、人々に大きなジレンマを与えている。これは、私たち日本人も無関係ではない。なぜならば、日本もまたグローバル化の中で存在している国だからである。

仮に私たちは日本の文化を守るために移民は大反対だと思っているとする。日本は日本人のものであるべきだと強く考えているとする。立場的にはグローバル化は反対のポジションとなる。

しかし、私たちは同時に、インターネットを使いたいと思っているし、グーグルの検索エンジンも使いたいし、アップルのアイフォーンも使いたい。それはグローバル化が生み出したものでありグローバル化を促進するものだ。

私たちは日本企業は日本人を雇い、日本製を買うのが良いと何となく考える。それは自然なことのように思うからだ。

しかし同時に、家計のためには安ければ安い方が良いと考えて、100円ショップで中国製の安い製品を買う選択肢も欲しいと思う。それは、グローバリズムの恩恵を得たいということでもある。

日本という国を守りたいし、伝統も守りたいし、しかし海外とも関わりを持ちたいし、インターネットも使いたい。もうすでに、どちらか一方だけを選択することは不可能なのだ。

現代社会で起きている「2つの対立した価値感」は、みんな気がついている。それは明白なのだ。だから人々はどちらか一方に大きく振り切れることができず、混乱し、態度を保留している。

どちらかと言うと、全世界は紆余曲折を経ながらも、グローバリズムに覆われていく社会になっていく可能性が高い。国家も、企業も、経済も、情報も、すべてがグローバリズムを志向しているからだ。

つまり、世の中を動かしているシステム自体は、すでにグローバル化している。だから、それが良いのか悪いのかは別にして、なし崩し的にグローバル化が進んでいくことになる。

ドナルド・トランプ大統領やボリス・ジョンソン首相の強烈な巻き返しを見ると、グローバリズムの否定が始まっているように見えるが、この動きは着々と進行していくグローバリズムの中で見ると、一時的な停滞に過ぎないのかもしれない。

ダークネスの電子書籍版!『邪悪な世界の落とし穴: 無防備に生きていると社会が仕掛けたワナに落ちる=鈴木傾城』

もう「国」で考える時代ではなくなっている

経済はすでに「国家」という概念をはみ出して動いている。情報も、インターネットという技術で、すでにとっくの前に国家をはみだしている。

ネットワークによって情報と経済が国境を超えてさまよい、その流れをとめることはできない。特に経済は完全にグローバル化しており、世界中のほぼすべての通貨はグローバル化の中で存続している。

そして情報と経済が密接に世界と結びついた後に、今度は人間のグローバル化が進むようになっているのが今の状況だ。誰も深く考えないが、グローバル化は最終的には「国家消滅の第一歩」となる。

グローバル化にとって国家は障壁であり、邪魔者だからである。現在もすでに国家はグローバル化の中で影響力は確実に小さくなっている。

かつては国と国での結びつきだったが、やがては周辺国同士がブロック化して、北米ブロック、南米ブロック、アジア・ブロック、ヨーロッパ・ブロックで人々は考えるようになっている。

ブロック内で貿易協定を結び合い、国と国の規制を撤廃するのが常態化し、さらには温暖化問題などでそれぞれの国の代表が一堂に介して問題を話し合うようになっている。もう世界は密接につながっていて、ひとつの国家だけで対処できない問題ばかりになったからだ。

いずれは、このブロックも統一されて「ワン・ワールド」の世界が生まれ、国が解体されたとしても不思議ではない。

しかし、一方では依然として「地域」「国」という概念はそのまま人々の心の中に残る。それが故に、国同士の利害が発生して対立が解消できない。

経済や企業や文化はどんどん「国」を超越して動いているが、人の頭の中はそうではない。本来、人々の生きている世界はとても小さい世界である。

人々は同質でつながり、同質で結びつき、自分と同じ考え方や気質や文化や言語や人種を好む。そのため、どんなにグローバル化が世界統一を成し遂げても、やがてはまた分裂して「同じ人間同士」で固まる。

統一したら分裂し、分裂したら統一する。歴史はそのせめぎ合いの中で流れている。2020年代は、世界はグローバリズムで統一に向かうのか。それともパトリオティズムで分裂に向かうのか。今のところ誰も答えを持っていない。

『「反グローバリズム」の逆襲が始まった(馬渕 睦夫)』。トランプ、プーチン、安倍を葬りたいグローバリストたち

鈴木傾城のDarknessメルマガ編

CTA-IMAGE 有料メルマガ「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」では、投資・経済・金融の話をより深く追求して書いています。弱肉強食の資本主義の中で、自分で自分を助けるための手法を考えていきたい方、鈴木傾城の文章を継続的に触れたい方は、どうぞご登録ください。

一般カテゴリの最新記事