オリンピックは開催した方がいいのか中止した方がいいのか。私はこう考える

オリンピックは開催した方がいいのか中止した方がいいのか。私はこう考える

今、足りないのはトップの強い意志と説得である。トップが「分析中だ」とか「注視する」とか「検討する」とか「前向きに」とか「重大な関心を持って見守る」とか「動向を見極めて対応を探る」とか、そんなことばかり言っていては駄目だ。菅首相は決断し、日本人と世界を説得して欲しい。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

全員がワクチン接種を済ませている状態にはならない

東京オリンピックは2021年7月23日に開催される「予定」となっている。オリンピック開催については「開催すべき」という意見と「中止すべき」という意見が拮抗しており、オリンピック選手ですらも意見が割れている。

すでにワクチン接種が始まっているとは言えども開催まで4ヶ月しかない。今回のオリンピックは、もし開催したとしても絶対に通常通りの開催にはならないのは100%間違いない。

すべての国のすべての参加者・関係者がワクチンを打てるわけではない。日本も遅れている。観客やボランティアや関係者の全員がワクチン接種を済ませている状態にはならない。

さらにワクチン接種が進んでいる国の中でも、アスリートによってはパフォーマンスに影響するかもしれないと断固としてワクチンを拒絶することもある。

すでに1年間延期されたわけで、これによって2020年に身体のパフォーマンスが最高値になるように調整してきたアスリートは苦境に落ちた。2021年の開催では最高のパフォーマンスが見せられない身体《フィジカル》になってしまったと述べるアスリートもいる。

あるいは、開催されるのかどうかも分からない中でモチベーションが完全に低下してしまったアスリートもいるかもしれない。あるいは、心情的にも「誰もが歓迎してくれないこんなゴタゴタの中で、競技をやりたくない」と自ら中止を願うアスリートもいるだろう。

こうした中で開催すると、有力選手が出場しなかったり、選手を送り込まない国が出てきたりする可能性もある。場合によってはアスリート自身や参加国が「こんな時にオリンピックを開くのはおかしい」と激しく糾弾してくる可能性もあるはずだ。

しかし、一方で東京オリンピックに人生を賭けているアスリートも大勢いる。オリンピックの競技は人類が表現し得る最高級の身体的パフォーマンスを見せる場である。

毎日毎日、同じパフォーマンスを発揮できるわけではなく、それこそ東京オリンピックが「一生に一度のステージ」のアスリートさえいる。

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東京オリンピックは「開催するも地獄、中止するのも地獄」になる

東京オリンピックは「開催するも地獄、中止するのも地獄」になる。開催国である日本は「どちらを選んでも批判される」ということだ。

開催について、いまだに責任のある立場にいる多くの人が明確な意見を表明できないのは、状況が刻々と変わるという点以外に、どのような意見を表明しても「損する」からでもある。

東京オリンピックに賛成した人は、オリンピックがトラブルまみれになった時に「ほら見ろ、絶対に賛成すべきではなかったのだ」と言われる。仮にオリンピック選手や関係者がコロナに感染したりすると、場合によっては責任を取らされるかもしれない。

しかし東京オリンピックに反対していた人は、何とかオリンピックが開催して無事に終了したら「お前はこんな素晴らしい大会を反対していた。お前がいなければもっとオリンピックはスムーズに進んでいた」と、やはり責任を取らされるかもしれない。

誰もがオリンピック開催の可否について意見を述べるのはリスクなのである。

しかし、日本は当事国なのである。全世界は「開催国である日本はどのような立場なのか」をじっと見ている。日本は開催国としてきちんとしたメッセージを送らなければならない。

このオリンピック史上で最も波乱を呼ぶ大会の開催国である日本としては、どのように振る舞うのが正解なのだろうか。

東京オリンピックの責任者は「東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会」の橋本聖子氏だが、開催国のトップは菅義偉《すが・よしひで》首相である。

菅首相はトップとして、強いメッセージを送るべきだ。腰が引けたよく分からないメッセージでは駄目だ。

私は開催国である日本、そして日本のトップである菅首相は「オリンピックは開催する」と堂々と断言し、その決意を日本人と世界に向けて堂々と訴えかけるのが必要であると思っている。

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開催するのかしないのか、全世界が固唾を飲んで見守っている

「人類は中国発コロナウイルスで大きな苦難の中にある。しかし、この苦難でも人類は負けていないのだというのを見せてくれるのが、人類で最強の身体能力を持ったアスリートたちなのだ。今回のオリンピックは記録との戦いであると同時にコロナとの戦いでもある。競技が行われ、アスリートが素晴らしいパフォーマンスを見せること自体がコロナに対する勝利である」

このように菅首相には言って欲しい。そして揺るぎない不退転の決意を日本国民や世界の国民に見せて、説得して欲しい。

東京オリンピックは誰がやってもコロナ禍の今では難しいプロジェクトである。どのように開催したとしても通常の大会のようになれない。しかし、だからこそ、トップの決意が揺らいでいたら開催もできないし、成功もおぼつかない。

トップが「絶対にやるのだ。成功させるのだ。成功させるためには何でもやるのだ」という決意があって、関係者が全力を尽くすことができて、アスリートが安心して練習に打ち込むことができて、国民はそれを応援することができる。

状況が流動的であるからこそ、トップが「できる限りのあらゆる手を尽くす。責任はすべて私が取る。状況がいかに悪く見えようともやる」と明確なメッセージを出す必要がある。

世界に対して、きちんとしたメッセージを発信すべきだ。

別に安全対策をおろそかにしろとか、軽視しろと言っているわけではない。安全対策のために全世界と協力し、あらゆる手を尽くすことを内外に示し、努力し、そしてそれを周知する体制を作って迎え入れることも必要だ。

最先端の防疫体制が求められるはずだが、その防疫体制もトップが「オリンピックを開催する」と宣言して、国内外を説得するという姿勢が最初になければ動かない。

今回のオリンピックが置かれている状況は異常事態である。だから、全世界が日本の決断と主張を見ている。国のトップがどのように考えているのかを、全世界が固唾を飲んで見守っている。

困難な時こそトップは「決意」して、それを世界に語り、これからすべきことを示し、説得し、共感してもらい、協力を求めなければならない。

今、足りないのはトップの強い意志と説得である。トップが「分析中だ」とか「注視する」とか「検討する」とか「前向きに」とか「重大な関心を持って見守る」とか「動向を見極めて対応を探る」とか、そんなことばかり言っていては駄目だ。

菅首相は決断し、日本人と世界を説得して欲しい。

映画『ミュンヘン Munich (字幕版)』。1972年のミュンヘン・オリンピック開催中に、11名のイスラエル選手が人質にされ、その後殺された。

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